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糞神の子クソクレスが人の世に降り立った。栄光の神話を君に。

降臨


序章:糞と、人の標
第一章:クソクレスの旅立ち
第ニ章:金の糞と銀の糞(1)
第ニ章:金の糞と銀の糞(2)
第ニ章:金の糞と銀の糞(3)
第三章:北の厠(1)
第三章:北の厠(2)
第三章:北の厠(3)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(1)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(2)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(3)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(4)
第五章:ヘガデル村の少年(1)
第五章:ヘガデル村の少年(2)
第五章:ヘガデル村の少年(3)
第六章:糞と屁の攻防(1)
第六章:糞と屁の攻防(2)
第六章:糞と屁の攻防(3)
第六章:糞と屁の攻防(4)
第七章:伸びる糞(1)
第七章:伸びる糞(2)
第七章:伸びる糞(3)
第七章:伸びる糞(4)
第七章:伸びる糞(5)
第八章:糞の誓い(1)
第八章:糞の誓い(2)
第八章:糞の誓い(3)
第九章:糞を食らうもの(1)
第九章:糞を食らうもの(2)
第九章:糞を食らうもの(3)
第九章:糞を食らうもの(4)
第十章:アクソポリス(1)
第十章:アクソポリス(2)
第十章:アクソポリス(3)
第十一章:大の教えと小の教え(1)
第十一章:大の教えと小の教え(2)
第十一章:大の教えと小の教え(3)
第十一章:大の教えと小の教え(4)
第十一章:大の教えと小の教え(5)
第十二章:小便の大隊(1)
第十二章:小便の大隊(2)
第十二章:小便の大隊(3)
第十二章:小便の大隊(4)
第十三章:二つの奇跡(1)
第十三章:二つの奇跡(2)
第十三章:二つの奇跡(3)
第十三章:二つの奇跡(4)
第十三章:二つの奇跡(5)
第十三章:二つの奇跡(6)
第十四章:厠は二つ(1)
第十四章:厠は二つ(2)
第十四章:厠は二つ(3)
第十四章:厠は二つ(4)
第十四章:厠は二つ(5)
第十四章:厠は二つ(6)
第十四章:厠は二つ(7)
第十五章:炎の日(1)
第十五章:炎の日(2)
第十五章:炎の日(3)
第十五章:炎の日(4)
第十五章:炎の日(5)
第十六章:糞は舞い降りた(1)
第十六章:糞は舞い降りた(2)
第十六章:糞は舞い降りた(3)
第十六章:糞は舞い降りた(4)
第十六章:糞は舞い降りた(5)
第十六章:糞は舞い降りた(6)
第十六章:糞は舞い降りた(7)
第十七章:己が意志(1)
第十七章:己が意志(2)
第十七章:己が意志(3)
第十七章:己が意志(4)
第十七章:己が意志(5)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(1)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(2)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(3)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(4)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(5)
第十九章:約束の地(1)
第十九章:約束の地(2)
第十九章:約束の地(3)
終章:糞は友達(1)
終章:糞は友達(2)
終章:糞は友達(3)
終章:糞は友達(4)

解説


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 よほど自分の馬に自信があるのか、ベントホーヴェンは馬比べをしようではないかと口にしました。ブリーデンとスタルベンにも、異論があろうはずがありません。
 ようやく床から起きたフンダが目覚めの糞を済ませ、部屋の外に出て来ると、そこでは既に、ベントホーヴェンの馬々がそれぞれ準備運動を始めていました。馬たちは、ベントホーヴェンの号令に従い、家の前に作られた臨時のパドックで曳き運動を行っていたのです。
 その、ベントホーヴェン所有の馬群の中に一頭、目を見張るほどの輝きを持った糞褐色の馬がいました。発達したトモの膨らみが、馬糞の雄大さを物語っています。
 ベントホーヴェン自慢のその馬は、名前をアヌスミラブリス号といいました。
 しかしフンダは別段その馬の様子を気に留めるまでもなく、朝ご飯を求めて部屋の中に戻って行ってしまいました。フンダは特に動物が好きではなかったので、そのまま台所に直行し、転がっている食材を摘み食うことが目下最大の関心事です。
 ところでブリーデンとスタルベンの用意した馬は各一頭づつだけなので、ベントホーヴェンも一頭だけこの糞馬品評会に馬を差し出さなければなりません。
 迷わず、ベントホーヴェンはアヌスミラブリスを選びました。
 こうして三人の馬自慢が始まったのです。

 一番手はブリーデンのフンザン号です。
「フンザンは歩きながら糞を垂れる能力にかけては他馬の追随を許しません。見て下さい、今もこうして排便を続けながら元気に歩み続けています」
 成る程フンザンは徘徊しつつも糞を垂れ続けています。農耕馬として最高の資質を備えていると言っても過言ではないでしょう。
 次はスタルベンのクリスタルブリッダース号の出番です。
「クリスタルブリッダースはその名の通り光り輝く見事な糞を垂れます。しかし見せ掛けだけの糞ではありません。見て下さい、硬質ですが、養分の溢れた名糞です」
 成る程クリスタルブリッダースの糞は堅そうですが、その溢れかえる匂いに最上級の糞力を感じます。
「量を取るか、質を取るか、か」
 クソクレスの眼力を以ってしてもどちらの馬が上位にあるのか分かりません。
 村人達はこの素晴らしい闘いの場に立ち会えた事に感激し、ただただ固唾を飲んでこの光景に見入るばかりです。
 その時です。ベントホーヴェンの厩の奥から爆雷の如き排泄音が鳴り響きました。
「何だ!」
 クソクレスが振り向くと、そこでは品評会に選ばれなかったベントホーヴェンの飼育している馬のうちの一頭が、大きな馬糞を生産しているではありませんか。その馬糞は大きく、雄大で、しかも厩の床の一面を覆うまでに豊かな量であり、フンザンとクリスタルブリッダースのそれを合わせても凌ぐほどです。
「何という巨糞!何故あの馬を、この場で競わせないのか」
 クソクレスの問いに、ベントホーヴェンはいとも簡単に答えました。
「他ならぬ、今ここにいる、このアヌスミラブリス号こそが我が代表産馬だからです。あの馬とて太刀打ちできるものではありません」

-つづく-

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 そしてそのベントホーヴェンの言葉は、数秒も待たずに証明されたのです。

 大地が、大地が弾みました。
 大きな鼓動が村を包み、アヌスミラブリスの肛門から、熱く煮えたぎった、太い太い大便糞が排出されました。
 普通、馬の糞はぼろぼろと零れ落ちるものなのに、アヌスミラブリス号のそれは目を見張らんばかりの一本糞(いっぽんぐそ)で、肛門から繋がったまま大地に落ちていきました。
 そしてそのアヌスミラブリス号の糞は、千切れ落ちてゆく事もせず、太い荒縄の如く、とぐろを巻き始めたではありませんか。

「おおおおお」
 村人達の喚声が山々にこだまして、クソクレスの耳を劈きました。
 大歓声に驚いたフンザンとクリスタルブリッダースは大暴れしてその場を逃げ出そうとしますが、アヌスミラブリスは微動だにせず排便を続けています。
「勝負あった」
 クソクレスは声高にアヌスミラブリス号の勝利を告げました。もちろん誰も異論のあろうはずがありません。
「素晴らしい勝負を見させて頂きました」
 十分お腹が膨れたので、フンダも遅ればせながらの参上です。フンダはクソクレスの横に歩み寄り、大きく拍手をはじめました。
「フンダよ、足はどうしたのだ」
「はい、軽い捻挫だったようです。まだ少々腫れが残っていますが、別段どうと言う事はありません」
「なんだ、そうだったのか。大騒ぎして損をしたな」
 クソクレスのその言葉に、村人達の笑い声がどっと巻き起こりました。
 結局クソクレスは、全馬ともよく頑張ったという事で、三頭の馬糞を混ぜ合わせ薬を作るよう提案しました。その寛大なる心こそがクソクレスの持ち味です。
 そしてクソクレスは調合された糞薬を受け取ると、旅の所持物として傍らの袋に詰め、お礼に村へ糞の洗礼をしました。
 クソクレスの糞で村は浄化され、翌年の豊作が約束されたのです。
 ベントホーヴェンは感激して、クリスタルブリッダース号をクソクレスに進呈したいと申し立てました。
「クソポタミアの富豪プリグソ公に売却する予定だったのですが、クソポタミアは原因不明の大災害により滅んでしまいました。どうせこのままでは馬肉です。是非ともこの馬をお供に連れて下さい」
 クソクレスはベントホーヴェンに、アヌスミラブリス号が売り物であるのならば、売り物はあくまでも売り物として扱わなければならないと主張しました。このような名馬をただで貰うなどとは気が引けます。しかしベントホーヴェンも無償でこの馬を譲渡するといって譲りません。
 クソクレスは長考の末、脱糞しました。
 その糞は大量の銅貨となり、そのまま貨幣として流通できる代物でした。ベントホーヴェンは、喜んでそれを受け取りました(訳者中:諸説によれば、現代の貨幣価値に換算すると百万トルコリラに相当する金額だと言われている。トルコでは平成十七年元旦にインフレ脱却のためそれまでの百万分の一のデノミネーションが実施され、同時点において、日本円にして一リラあたり約七十六円となった)。
 しかし信心深いベントホーヴェンは神からの有難い贈り物として、一生その銅貨を使う事はなかったということです。
 これがクソクレスの、旅の友となる名馬との出会いであり、そして、信心深い人の世の民との始めての出会いでした。
 クソクレスはここで、希望と言う名の心を得たのです。
 そして、偉大なる聖馬アヌスミラビリスとの旅立ちが始まったのです。

「ここから北東へ歩いて十五、六日の先に、糞神ブリューワ様の教えを忠実に護り続ける聖人達の住まう都があります。都の名は、そう、『アクソポリス』と言いましたかな」
 先の村でベントホーヴェンに教えてもらったクソクレス達は、糞の教えがどこまで忠実に守られているかを知るためにアクソポリスへと行き先を定めました。
 やがて二日も歩みつづけると、フンダは早くも旅路に飽き飽きしてきました。
「十何日も歩み続けるというのも辛いものですな」
 歩くのが苦手と言い張り駄々をこね、自らがアヌスミラブリスの背に跨いクソクレスを歩かせているという立場にありながら、フンダはあっさりと言い放ちました。
「アクソポリスに到達するまでに立ち寄る町が無いという事もないだろう。感じぬか、人の息吹を?」
 フンダはクソクレスに言われて鼻をひくつかせてみました。すると確かに遠い風に乗って人糞の匂いを嗅ぎ取る事ができます。
「確かに感じます。この近隣にも集落があるという事でしょうか。しかし何か、異質なるものの匂いをも感じますが」
「フンダも感じるか」
 フンダでも気が付くのですから、どこか近くに集落があり、しかも普通とは違う何かがそこにある事は間違いありません。
「アクソポリスへは何時でも行ける。この胸の内のざわめきを確かめぬわけにはいかぬだろう」
 フンダは「そんな事、別に気にする事はないでしょう」と言いたかったのですが、そろそろ飯と布団が恋しくなってきていたので、クソクレスに従う事にしました。
 それは、驚愕の物語の始まりでした。

 幾つもの山々を抜けるとそこには獣道に混じって、明らかな人の道が存在します。クソクレスは自身の嗅覚を頼りに目的地を定め、歩みを進めますが、どこか異臭を感じ、その足を更に早めました。
 その時です。
「誰だ、お前等は、ブフッ(訳者注:屁音)」
 倣岸ですが子供の声です。クソクレスが辺りを見渡すと、五十歩も離れた桜の木の枝に年の頃十二、三であろう少年が立っています。
 少年はどうやら屁をこいている様子です。
 クソクレスが名乗りをあげした。
「我が名はクソクレス。これは愛馬のアヌスミラブリス。人の子よ、他者に名を聞く時は、先に汝の名を名乗りなさい」
「私の名はフンダだ」
 クソクレスが思わずフンダの存在を無視してしまったので、フンダは自分で名乗りをあげました。
「俺の名はバビュウム。聖屁師(せいへし)ブビュウムの息子だ」
 少年もフンダに一瞥もくれる事なく、クソクレスの問いに答えました。

-つづく-

「聖屁師?……聖屁師とは何か」
 聞いた事もない名称です。
「お前等知らないのか、聖屁師とは俺のご先祖様を開祖としてその名も名高い、聖屁村・ヘガデルを発祥の地とする聖屁教(せいへきょう)の伝道師の事だ」
 聖屁教。
 そんな教団は、クソクレスには初耳です。
「そうか、お前等よそ者だな。だから聖屁教を知らないのか。くっせえ、臭え」
 バビュウムは枝から飛び降り、その名の通り大きな屁の音を立てながら、クソクレスに向かって歩を進めました。
「糞の匂いがプンプンするな。糞臭いな、お前等」
 なんという無礼な子供でしょう。
 クソクレスの嫌な予感は当たっていました。時が経つにつれて、糞の教えの本質を忘れてしまった人たちが存在しているのではないかという予感が。
 しかも屁といえば糞に成りきれぬ、大地との繋がりを持たない只の肛門のげっぷに過ぎません。そんなものを崇拝して、何になるというのでしょうか。
「年端も行かぬ子供にこのような邪教を叩き込むとは……」
 クソクレスは、全身の血がマグマのように滾り、さらに大腸の糞が小腸へ胃へと逆流していくのを感じました。そして思わずバビュウムの頬に平手打ちを見舞っていました。
 少年の身体が宙を舞います。
 大地に叩きつけられたバビュウムが思わず唸りました。
「痛えっ、こ、この、糞が!……糞野郎がよー!」
 フンダは、クソクレスが子供を叩いたのだから自分も同じ事をしなければならないのではと考え、倒れているバビュウムを掴み起こし、側頭部と頚動脈を目掛け、豪快なチョップを二発ほど叩き込みました。
 思わず我に返ったクソクレスは「待て、それはやり過ぎだ」とフンダを諌めましたが、時すでに遅く、バビュウムは意識を失ってしまっています。これでは何も話が聞けません。
「仕方ない、この少年を、聖屁師ブビュウムとやらの居る所まで運んでやらねばなるまい」
 フンダはバビュウム少年を自分が背負うのが堪らなく面倒だと思ったので、すかさずアヌスミラブリスの背中にバビュウムを乗せると、クソクレスに先立ち歩を進めました。
「さあ、急ぎましょう」
「うむ」
 こうしてクソクレスの一行は、ヘガデル村へと向かったのです。

-つづく-

 村は、すぐ近くでした。
 山を抜け、谷を抜けると、遠くヘガデルの街並みが見えてきます。
 そこには桜並木があり、森の伐採の跡があり、やがて村へと続く糞畳(訳者注:石の代わりに糞を敷き詰めた道路)が見えてきました。そしてその先にははっきりとした人の息吹が芽生えはじめ、何もなかった谷底の風景は徐々に人の生活圏へと姿を変えていくのです。
「父ブリューワの創造した人類は、大地に根付き、何処までもその勢力を伸ばし続けているのだな」
 クソクレスは感慨に耽り、村へと足を早めます。村の入り口はすぐそこです。
 クソクレスはそこで、聖糞堂の存在を認めました。
「何だ、この村にも糞の教えはちゃんと根付いているではないか」
 クソクレスは安堵の表情を浮かべましたが、同時に重大な事に気が付きました。
 聖糞堂は糞を祭るための祠です。大きな祠から小さな祠まで様々な形があるのですが、聖糞堂にとって大きさや形はさほど重要な事ではありません。要は人が糞を崇め、心から糞に感謝の意を示しているという事実が認められれば、それで十分なのです。無意味なまでに糞を祭りたて、崇め抜く必要はありません。そんな事をしなくても、糞はいつでも人の側に在るのですから。
 しかし、ヘガデル村の聖糞堂には、絶対的に大切なものが見当たりません。クソクレスは嫌な予感を押さえつつ、聖糞堂へと駆け寄りました。
 聖糞堂の門前には、必ず糞箱と呼ばれる小さな糞を塗り固める事によって作られた箱があり、そこには糞が収められています。ところがヘガデルの聖糞堂の糞箱には糞の姿が見当たりません。
 それに聖糞堂は必ず人の在る処の風上に置かなければならないのですが、ヘガデルの聖糞堂はどう見ても村の谷底、つまり風下に位置しています。しかもクソクレスは、糞で塗り固めて作られているはずの糞箱そのものが、桜木の板を重ね合わせたベニヤの表面に、ただ申し訳なさ気に糞を塗り付けただけの代物である事を発見してしまいました。
「何たる不信心!」
 クソクレスは怒りに任せ、村の入り口に立っていた百姓のコーウンタールを呼び付け怒鳴りつけました。
「村人よ、何故故にこの村の糞箱には糞が祭られていないのか。何故、糞箱がベニヤ板なのか。何故、この聖糞堂は風下に位置しているのか。
 答えよ。
 返答次第ではこの村に災いが巻き起こり、村人は子種を残す事もなく、永遠にその存在を抹消される事になるだろう」
 クソクレスのあまりの剣幕に、思わずコーウンタールはその手にあった柄杓を落としてしまいました。
 クソクレスは柄杓から零れ落ちた糞に気を取り戻し、ひとまず興奮した心を落ち着かせるために排便をする事にして、コーウンタール家の厠を借りました。そして怒りの脱糞の後、ようやくクソクレスは心を静め、この村を知るために、コーウンタールにもう一度、今度は優しく、丁寧に語り掛け、尋ねました。
 コーウンタールは先のクソクレスの質問に、矢継ぎ早で答えます。
「一、糞が祭られていないのは、糞を祭る必要が無いからです。それ位の事、お分かりになられませぬか。
 二、糞箱がベニヤ板なのは、一から糞を塗り固める作業を省くためであり、そもそも箱の土台が糞では臭くなり過ぎるからです。こんな返答で満足でしょうか。
 三、聖糞堂が風下にあるのは匂いの問題です。糞の入った箱など風上になぞ臭くて置いていられません。ですから祠自体風下に作られているのです。あなた程度の頭では、考えてもお分かり出来ぬかも知れませんが」
 クソクレスは思わずコーウンタールの頭蓋骨を手にしていた糞棒(訳者注:糞で作られた棍棒)で叩き割ってしまったので、その他の疑問は氷解されぬまま残ってしまいました。しかしこれは放って置く事はできません。
「フンダよ、バビュウムを叩き起こし、ブビュウムの所へ案内させなさい」
 フンダは近くの川へバビュウムを引きずり連れ、水面に少年の顔面を押し付けました。
「ぶわっ」
 少年が目覚めると、そこには仁王立ちで少年を見下げている鬼のような形相のクソクレスとフンダが立っています。
 少年は生まれてこの方無い恐怖心を感じ、思わず糞を垂れてしまいましたが、威厳に満ち溢れるクソクレスの姿になんとなく感銘を受け、彼らを父の元へ案内する事にしました。

 物語は、糞界に戻ります。
 糞界の中心に当たる大きな盆地の真ん中に、クソクレス旅立ちの地でもある糞の神殿は存在します。糞神ブリューワの住まう糞の神殿は、糞に満ち溢れたお堀に囲まれて、その雄大な姿を晒していました。
「うーん、うおおおお」
 糞の神殿の玉座の裏にある、聖なる便座で糞をひり絞っているその姿は、神の中の神、糞神ブリューワに他なりません。
「おおお、おおん、うおおお」
 神殿に響き渡るブリューワの呻き声は尋常ではありません。
「糞神ともあろうお方が便秘とは、嘆かわしい」
 妻クソーラはそう言って笑いますが、もはや今のブリューワにはそれに対して何か言い返すだけの気力もありませんでした。
「く、苦しい」
「また、困った事にならなければ……杞憂に終われば良いのですが」
 クソーラの心に不安が過ぎりました。

「天が……父が唸っている」
 下界の、ヘガデルの街中を行くクソクレスは、空が毒々しいとぐろ雲に覆われつつある事に恐れを抱き始めていました。
 父ブリューワの便秘は過去何度も糞界のみならず下界にまで多大なる災害を及ぼしました。クソーラと同様に、クソクレスも嫌な予感を感じるのです。
(訳者注:現世においても昭和五十五年の世界的大冷害、平成十八年から十九年にかけての局地的暖冬など、糞神ブリューワの引き起こしたと推測される災害は後を絶たない)
 しかし今クソクレスにできる事は、邪教にうつつ現を抜かす聖屁師ブビュウムと対峙し、それを打ち砕く事だけです。
「あれが俺の家だ。聖屁教総本山だ」
 バビュウムの声にクソクレスとフンダが大きく顔を見上げると、谷の上流、ヘガデル村を見下げるその場所にブビュウムの屋敷はありました。
 門前には糞の祭られていない大きな聖糞堂が堂々とその姿を晒し、さらにその奥には小便小僧ならぬ放屁小僧の噴風(訳者注:噴水のようなもの)が見え、その庭先には、両の拳を握り締め、高く天を見上げる一糸纏わぬ女神の糞像が存在します。
「糞の像があるのか。全く糞をないがしろにしているというわけではないようだな」
 クソクレスの呟きにバビュウムが答えます。
「あれは握りっぺ屁の女神というんだ」
 その説明にクソクレスは益々不機嫌になりました。フンダはただヌード像に見とれています。屋敷の門が開いているのは屁の風通しを良くするためでしょう。鼻を澄ませばどことなく、屋敷の中から屁の匂いらしき香りが漂ってきます。
「帰ってきたぞ、父さん」
 いよいよクソクレスとブビュウムの、対決の時が来たのです。

-つづく-

 糞界では聖母クソーラの命を受けた糞使(訳者注:くそし。正式名称は糞界天使ANGEL OF KUSO-FIELD)たちの手によって、大量の聖薬草エリクソーが糞の神殿に運び込まれていました。エリクソーは、便秘に効くのです。
「とんでもない事になる前に、排便の方をお済ましになられますよう」
 クソーラが優しく語り掛けますが、ブリューワの苛立ちは募るばかりです。
「分かっておるわ」
 ブリューワはもはや、不機嫌そのものです。
 先史時代にはその放便によって恐竜をも滅ぼした経歴を持つブリューワの一撃には糞界の誰もが恐れを抱いています。ブリューワが大便をこれ以上溜めるのは、下界の未来のためにも許されることではありません。
 糞使ガブリグソがブリューワの局部を押し広げ、さらに糞使クソエルがブリューワの菊門に薬草を擦り付けます。糞神の便秘を軽減させる術は、もうこれしか残されていませんでした。
「でももう、少し遅すぎたかもしれない…」
 クソーラの杞憂は、益々現実に近づきました。

 その頃ブビュウム邸ではクソクレス一行歓迎の宴が行われていました。
「うわっはっは、ようこそ、ヘガデル村にお出で頂きました」
 ブビュウムは召使いに命じ、温かいスープと柔らかいパン、そして最高級の七面鳥の丸焼きを差し出しました。
 クソクレスとフンダの前にはブビュウムとその息子バビュウム、さらにその弟ズビュウムの姿があります。
 アヌスミラビリス号は庭先で糞を垂れ続けています。
 ブビュウムを問い詰める前にフンダが食事を始めてしまったので、クソクレスは、ここはひとまず大人しくテーブルに就いて、聖屁師とやらの様子を見る事にしました。フンダは丸焼きを美味しそうに齧っています。
「いかが如何ですかな、ヘガデルの風景は」
 ブビュウムの問いにクソクレスはただ飯を頂いている遠慮から、優しく返答しました。
「何故、聖糞堂に糞の姿が見えぬのか」
「あれは、そもそも聖糞堂ではありません。聖屁堂です。我が村ではこうして、何代にも渡り屁を祭り続けているのです。箱の中身には人々の屁が凝縮されています」
「ではまた一つ問う。何故、糞箱の土台は糞ではなく、ベニヤ板で作られているのか」
「あれは糞箱ではありませんから、糞で箱を作る道理は無いのです。しかし屁では箱は作れませんから桜木で代用している所存であります。糞を塗り付けているのは単なる飾りです」
「箱を村の風下に設置している理由は何か。あれでは糞の香りが村の中に伝わらない」
「風下に箱を設置しておけばその匂いは急激に拡散して川下に消えて行きます。ですから我々はその匂いに惑わされる事も無く農作業に没頭できます。これは我々の編み出した生活の知恵であり文化なのです」
 懇切丁寧に説明を施してはいますが、やはりブビュウムは、糞の教えに大きく外れた邪信の持ち主である事には変わりありません。
「やはり、汝とは、決着をつけねばならないようだ」
 クソクレスは椅子から立ち上がると、ブビュウムを睨み付けました。
「望むところです」
 ブビュウムも怯む事無く対応します。
 フンダは、急いで残った飯を胃の中にかっ食らいました。
 今度こそ、戦いの時は来たのです。

-つづく-

 糞の神殿では悪戦苦闘が繰り広げられています。
「おおお、うむむむむぅ」
 強烈な便意がブリューワを襲い、糞使達は大空高く逃げ惑いました。
 いよいよ排便の時は来たのです。
 ガブリグソに抱えられ、クソーラも、高く、天空から糞の神殿を見下ろします。
 神殿の中は、もはや危険すぎるのです。
「来た」
 そのブリューワの一言が、合図でした。

 その一寸前、ブリューワの額に滲み出た汗が大雨となり、ヘガデルの村を襲う頃、街中ではクソクレスとブビュウムの対決が始まりました。我らが教祖ブビュウムと糞神の子クソクレスの対決を見ようとヘガデルの住民が河川敷の広場に集います。
「では、いざ行かん」
 先制攻撃はブビュウムです。
 ブビュウムが下腹部に力を込めると爆音とともに放屁が放たれました。
 その爆風は群集の一部を弾き飛ばすほど強力な一撃です。さらに恐るべき事に、その放屁は色付きでした。
 クソクレスは虚を突かれ、少しばかり驚きました。緑色の爆発的な屁がクソクレスを襲い、その衝撃でフンダはアヌスミラブリスの放置されている庭先にまで吹っ飛んでしまいました。そして、フンダはアヌスミラブリスに前頭部を蹴られ、激しくもんどりうって悶えます。
 フンダの額はぱっくりと割れ、その出血の量を見るところ、馬の後ろ足は相当の威力を有する様子です。見物人のバビュウムとズビュウムが大丈夫かと尋ねますが、フンダからの返答はありません。相当痛かったのでしょう。
 しかしそんな事とは関係なく、クソクレスとブビュウムの攻防は続きます。
「むっ」
 爆風に何とか耐えたクソクレスはブビュウムの放屁を見て、その認識を改めました。
「成る程力強い放屁。人の子が思い上がるのも無理はない」
 これだけの屁力(へぢから)を目の当たりにすれば、人が本来何の意味も持たない屁に深い意味を感じてしまうのも無理はありません。
「しかしそれは、幻なのだ」
 クソクレスは大きく息を吸い込み、身体中のアドレナリンを分泌させました。
 両胸の筋が膨張し、激しく打ち震えます。
 するとどうでしょう。大きく吸った息が形を変え、糞となってクソクレスの体から排便されたではありませんか。
 今度はヘガデルが驚愕する番です。
 しかもクソクレスの脱糞は降りしきる雨にも負けずその形を崩しません。神の糞の硬度には恐れ入るばかりです。
「何の」
 ブビュウムは、今度は桃紫色の放屁で対抗しますがクソクレスは小石の如く飛び散る破片糞で応戦します。
 行き詰まる死闘に村人はただ息を飲むばかりです。
「それでは本気を出させて頂きますぞ、クソクレス殿」
 ブビュウムは実のところはじめから本気だったのですが、更に本気になりました。

-つづく-

 闘いは熾烈を極めました。 
 ブビュウムの青い屁が近隣の小屋を吹き飛ばすと、負けじとクソクレスの糞は穀物畑を覆います。
 黒い屁は群集の一人を絶命させ、クソクレスの糞はその屍を土に還します。
 赤い屁が広場の木々を薙ぎ倒すと、クソクレスの糞は森と木々を同化させます。

「父さん、それじゃ駄目だ。父さんは間違っている!」
 突然バビュウムの叫びが場を打ちました。
「父さんの屁はものを壊しているだけだ。クソクレス様の糞は、生命を創造している!」
「何!」
 ブビュウムは我が子の言葉にうろたえました。
 確かにクソクレスの攻撃はその一撃一撃が生命を耕す役割を果たしています。
 穀物畑への脱糞は豊かな実りを潤すでしょう。
 屍を覆った糞は養分となり、肥沃な大地となるでしょう。
 森と同化した木々もまた、美しい花を咲かせるでしょう。
 しかしブビュウムの屁は、ただ、物を壊し、人を滅するだけなのです。
「ばかな、では、私のやって来た事は」
「隙有り」
 ブビュウムの逡巡を見抜いたクソクレスの脱糞がブビュウムに襲いかかります。
 ブビュウムはそれを何とか、屁の障壁で交わしました。
 クソクレスは続けざまに二の糞を放ちます。ブビュウムもそれに対応したいのですが、もう残り屁が大腸に残っていません。
「何と」
 必死で力むブビュウムですが屁は出ません。
「う、うおおおおおおおおーっ」
 しかしブビュウムの肛門に残っているものは、小さな一欠けらの大便だけでした。

 糞界の空高く舞い上がった糞使たちとクソーラが見たものは、糞の神殿から溢れ出る糞という糞の大洪水でした。
 神殿の窓という窓からブリューワの下痢便が溢れ落ち、それはみるみるうちにお堀を埋め尽くしていきました。
 やがて糞の神殿は内部から溢れ出る糞の圧力に負け、その城壁を崩し落としていきました。そして、ぼこぼこと拡張する糞の海の中に、跡形もなく沈んでいきました。
 無論、下痢糞の大洪水を引き起こした張本人であるブリューワはその中に生き埋めになるわけですが、糞の神ですから死ぬような事はありません。しかし、糞使たちの手によって再び糞の中から掘り起こされるまでには百や千の日々を費やさざるを得ないでしょう。
 クソーラは、ブリューワの無事に関しては心配していませんでした。
 問題は、この溢れ返った糞の洪水が下界に流れ去った時、どれだけの影響が人の世に及ぶのかという事です。
「過去、どれだけの下界の文明が、この洪水によって滅んだ事か」
 クソーラがガブリグソに質問しますが、ガブリグソとて分かりません。
「さあ、過去に何度も繰り返されてきた事ですから、多過ぎて覚えていません」
 ブリューワは、その気にならなくても生理現象だけで下界の人類を滅亡させる事が出来るだけの絶大なる能力の持ち主なのです。
 クソーラにできる事は、ただ下界の無事を祈るだけしかありません。

 糞の神殿が糞の海に沈んだ時刻と、ヘガデルの勝負が終わった時刻は、ほぼ同時間の事でした。
「もう、駄目だ」
 ブビュウムは観念しました。
 クソクレスの二の糞は先の糞を凌ぐ大きさでブビュウムに襲い掛からんとしています。 直撃を受ければ、もはやブビュウムの命はありません。
 その時、奇跡が起こりました。
 ブビュウムの尻より出でたる小さな大便が、ぽとりと地に落ちたかと思うと、それを踏みつけたブビュウムの足を滑らせたのです。
 ブビュウムの体は平衡を崩し、地面に叩き付けられました。
 しかし、それによりブビュウムは、クソクレスの放った必殺の糞の直撃を避ける事ができたのです。

-つづく-

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