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糞神の子クソクレスが人の世に降り立った。栄光の神話を君に。

降臨


序章:糞と、人の標
第一章:クソクレスの旅立ち
第ニ章:金の糞と銀の糞(1)
第ニ章:金の糞と銀の糞(2)
第ニ章:金の糞と銀の糞(3)
第三章:北の厠(1)
第三章:北の厠(2)
第三章:北の厠(3)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(1)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(2)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(3)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(4)
第五章:ヘガデル村の少年(1)
第五章:ヘガデル村の少年(2)
第五章:ヘガデル村の少年(3)
第六章:糞と屁の攻防(1)
第六章:糞と屁の攻防(2)
第六章:糞と屁の攻防(3)
第六章:糞と屁の攻防(4)
第七章:伸びる糞(1)
第七章:伸びる糞(2)
第七章:伸びる糞(3)
第七章:伸びる糞(4)
第七章:伸びる糞(5)
第八章:糞の誓い(1)
第八章:糞の誓い(2)
第八章:糞の誓い(3)
第九章:糞を食らうもの(1)
第九章:糞を食らうもの(2)
第九章:糞を食らうもの(3)
第九章:糞を食らうもの(4)
第十章:アクソポリス(1)
第十章:アクソポリス(2)
第十章:アクソポリス(3)
第十一章:大の教えと小の教え(1)
第十一章:大の教えと小の教え(2)
第十一章:大の教えと小の教え(3)
第十一章:大の教えと小の教え(4)
第十一章:大の教えと小の教え(5)
第十二章:小便の大隊(1)
第十二章:小便の大隊(2)
第十二章:小便の大隊(3)
第十二章:小便の大隊(4)
第十三章:二つの奇跡(1)
第十三章:二つの奇跡(2)
第十三章:二つの奇跡(3)
第十三章:二つの奇跡(4)
第十三章:二つの奇跡(5)
第十三章:二つの奇跡(6)
第十四章:厠は二つ(1)
第十四章:厠は二つ(2)
第十四章:厠は二つ(3)
第十四章:厠は二つ(4)
第十四章:厠は二つ(5)
第十四章:厠は二つ(6)
第十四章:厠は二つ(7)
第十五章:炎の日(1)
第十五章:炎の日(2)
第十五章:炎の日(3)
第十五章:炎の日(4)
第十五章:炎の日(5)
第十六章:糞は舞い降りた(1)
第十六章:糞は舞い降りた(2)
第十六章:糞は舞い降りた(3)
第十六章:糞は舞い降りた(4)
第十六章:糞は舞い降りた(5)
第十六章:糞は舞い降りた(6)
第十六章:糞は舞い降りた(7)
第十七章:己が意志(1)
第十七章:己が意志(2)
第十七章:己が意志(3)
第十七章:己が意志(4)
第十七章:己が意志(5)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(1)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(2)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(3)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(4)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(5)
第十九章:約束の地(1)
第十九章:約束の地(2)
第十九章:約束の地(3)
終章:糞は友達(1)
終章:糞は友達(2)
終章:糞は友達(3)
終章:糞は友達(4)

解説


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 ブビュウムの体の上を僅かにかすめたクソクレスの糞は、遥か彼方まで飛んで行ったかと思うと、大空で大きな爆発を起こし、ヘガデルの大地を揺らしました。その糞の咆哮は村人たち全ての心を劈き、畏怖の念を与えるに十分なものでした。
 やがて、粉々に砕かれた糞の結晶が、粉雪のように村を包みました。
 それは吹き叫ぶ嵐の中できらきらと輝いて、見る人の胸を打ち付けました。
「父さん」
 バビュウムが、ブビュウムの下に駆け寄りました。
「わしは、救われたのか。糞に救われたのか」
 バビュウムは、優しく父に語り掛けました。
「父さん。父さんの、負けだよ」
 もうブビュウムに、戦意は残されていませんでした。
 神の子と人の子の戦いは、こうして終わりを告げました。ブビュウムは完敗を認めざるを得ません。
 クソクレスは大きく弾む息を整えると、たった今まで敵として立ち向かってきたバビュウムに、言葉を投げ掛けました。
「戦いの最後に、汝は排便を施した。気張れば気張るほど、最後に姿を表すのは糞なのだ。 決して屁ではない。屁はただの匂いを伴った空気に過ぎぬ」
 ブビュウムは頭を垂れ、神妙に聞き入っています。クソクレスはさらに言葉を続けました。
「成る程私は戦いの中で屁の威力を知った。ヘガデルに何代にも渡って屁の技巧が受け継がれてきたのも納得出来よう。しかし、それはヘガデルの文化としては認めても、屁を過信し、拡大解釈の末、邪教へと姿を変えるならば、許されるものではない。糞を崇めずして幸せを得ようなどとは、天に唾する行為である事と知るが良い」
 村人たちもブビュウムも、己が非を認め、クソクレスに過ちを謝罪しました。
 それでクソクレスは、ヘガデルの人々を許す事にしました。
「分かれば、問題はないのだ」
 分かり合えた喜びに、クソクレスも頬が緩みます。
 しかしその時、更に大きな、大地の唸りが響きました。
「な、何だ」
「上流から黄土色の鉄砲水が流れてくる。川沿いは危ないぞ!」
「く、糞を蔑ろにしてきた祟りか?」
 口々に村人たちが叫びます。
 いつの間にか雨は強さを増し、嵐が吹き付け、川の流れが激流に近くなっています。
 クソクレスには分かりました。これは他ならぬブリューワの便が放出され、糞界から下界へと滴り落ち、暴雨を巻き起こしているのであると。
 ならば押し寄せる糞の濁流が川の水を巻き込み、やがてこの谷にまで押し寄せて来よう事は自明の理です。放って置けば最悪の場合、せっかく糞の教えに目覚めたヘガデルの村人たちも命の危険に晒されましょう。
「村人たちよ、急いで山に登りなさい。ここは危険すぎる。命が惜しければ、早く」
 クソクレスの言葉に村人たちは慌てて広場を出て山に登り始めました。人々が高台から谷を見下ろすと、川が糞の濁流によって轟々と水嵩を増し、堤防が決壊していく模様が窺えます。先ほどまで皆がいた闘いの広場も、その中に巻き込まれていく様子です。
 その時です。
「クソクレス様、ズビュウムが……!俺の弟がいない!」

-つづく-

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 バビュウムの叫びに、クソクレスは耳を疑いました。全員避難したはずです。
 しかし、確かにズビュウムの姿が見当たりません。
「いた、あそこだ」
 村人の叫びにつられて見ると、広場の中にズビュウムの姿が見えました。
 見ると、心優しいズビュウムは、村人たち皆に忘れられていたフンダを救うために広場に戻った様子です。クソクレスも、フンダの事はすっかり忘れていました。
「クソクレス様の従者のなんとか様、しっかり、目を覚まして!」
 まだ年端も行かぬズビュウムは、アヌスミラブリス号の脇で失神を続けているフンダの体を揺り動かしました。しかし反応がありません。
 仕方がないのでズビュウムは、フンダの喉仏に手刀を叩き込みました。これは結構効くものです。フンダの体が跳ね上がりました。
 激しい痛みで目を覚ましたフンダは、次の瞬間、川が増水し、広場が水に埋まり始めているのを見て、慌ててアヌスミラブリスの背中に飛びつきました。
 それでもアヌスミラブリスは悠然と糞を垂らし続けています。足元にまで水が流れてきているというのに全く慌てる事なく堂々と排便を続けるその姿には感動すら覚えます。
 その刹那、とうとう河川の堤防が完全に崩れ落ちて、鉄砲水の渦が広場を襲いました。
 するとアヌスミラブリスは遂に危険を感じのか、突然機敏に身を翻したかと思うと、フンダを背に乗せたまま山の斜面を駆け抜けて、あっという間にクソクレスたちのいる高台にまで到達したのでした。本当に危ない局面に至るまで堂々と立ち誇るその姿、そしていざという時の身の軽さ、正しく名馬の真骨頂です。
「クソクレス様、危ないところでしたが助かりました」
 フンダは、頭からまだ流血しつつも馬上からクソクレスに報告をしました。
「広場が危ない!」
 村人が叫びました。
 爆発的な濁流が広場を包み、家屋や田園を襲います。
 そして広場にはまだ、取り残されたズビュウムがいるのです。

-つづく-

 

 大きな泥流に沈まんとする広場の脇に、バビュウムが駆け下りました。
「誰か、弟を、ズビュウムを助けてくれ」
 バビュウムを先頭に、ブビュウムや村人たちも水面に駆け寄りますが、既に広場は泥流に溢れ、手の出し様がありません。
 ズビュウムはもがきつつも慌てて近くの岩にしがみつきましたが、見る見るうちに高さを増した濁流の中に今にも飲み込まれようとしています。
「もう助けるのは無理そうですね、クソクレス様」
 フンダは簡単に言い放ちました。諦めが早いのが彼の欠点です。
「いや、まだ望みはある」
 神の子である偉大なるクソクレスは勇気ある少年に早々と見切りをつけるような愚かな真似はしません。
 バビュウムが救助方法を提案します。
「みんな、みんなで屁を放て、俺たちの屁の力で濁流を堰き止めて、その間にズビュウムを助けるんだ」
「うむ、やってみよう」
 二十人を越す屁自慢の村人たちが濁流に背を向け、尻を突き出しました。そして一、ニの三の掛け声で、全員が一気に屁を放ちました。
 しかしこれは逆効果でした。爆風は激しく猛威を振るう濁流の水面を激しく波立たせ、益々状況は悪化していきました。
 しかもその爆風は、岩にしがみつくズビュウムをもあわや跳ね飛ばさんという勢いで打ち付けていきます。
 試みは、失敗でした。

-つづく-

 しかし、もう駄目だと村人皆が観念したその時、クソクレスが悠然と立ち上がりました。
「皆の者下がり給え、私は少年を救おうという汝らのその姿に感動した。後は私に任せるが良い」
 クソクレスは村人と同じように川に尻を突き出すと、大きく息を継ぎ、全身全霊の精力を込めて臀部を震わせました。
 するとクソクレスの肛門から長く、堅い一本糞が放たれたのです。
「おおおおお」
 村人たちの感嘆の声があがりました。
 クソクレスの長い糞は、その堅さを維持したまま伸び続け、遂にはズビュウムの岩場に辿り着いたのです。
「ズビュウムよ、掴まり給え」
 ズビュウムが糞の端を両の手でしがみ付くと、その長糞はクソクレスの体内に再び引き戻されて行きます。正に、神業です。村人たちは今更ながら糞神の素晴らしさに舌を巻き、驚愕し、そしてまた神技を目の当たりにした感動に打ち震え咽び泣きました。
 こうしてズビュウムは糞のロープによって無事に生還しました。
 クソクレスはこの一件で、ヘガデルの民の絶対的な信頼を得る事に成功したのです。 それは、神と人の心が邂逅した、歴史的な一瞬でした。

「思ったより、被害は軽く済みそうですね」
 天界のクソーラもほっと胸をなでおろしています。
 糞の神殿は失いましたが、糞界の盆地(訳者注:山梨県甲府盆地ほどの大きさであると推測される)に糞がたまったぐらいで被害が済んだのですから万万歳です。
 ブリューワの下痢便が最もひどい時は、被害はこの程度では済まないという事を、クソーラは経験上良く知っていました。傍らのガブリグソもほっとしている様子です。
 糞使のリーダー格であるそのガブリグソが号令を掛けました。
「この程度の損害で済み、幸いである。神殿はまた造れば良い。さあ、皆の力でこの糞の中に埋もれた、ブリューワ様を掘り起こそうではないか」
 しかしクソーラは、糞使たちにこう語り掛けました。
「急ぐ事はありません。今すぐに糞神ブリューワを掘り起こせば、彼は今回の腹いせにすぐにでも人の世の撲滅に取り掛かるかもしれません。今下界にはクソクレスが舞い降りて、世を正さんと奮闘しています。クソクレスと下界の民のためにも、救いの猶予を与え給うではありませんか」
 ガブリグソはどちらかというとブリューワよりクソーラの方が好きな糞使だったので、その意見をあっさりと受け入れ、たった今放った号令を修正しました。
「聖なる母クソーラ様のご希望である。糞神ブリューワ様の捜索を急ぐ事はない。ゆったり、のんびりと発掘に取り掛かろうではないか。糞神たるブリューワ様の事なので、糞の中に埋もれて死ぬような事はないだろう。五年、十年計画で時間をかけて掘り起こせばよい」
 はっきりいうと、短気で扱い難い糞神ブリューワを急いで無理に救い出し、その後の彼の無理難題に振り回されるよりも、温厚で優しいクソーラの下でのんびり楽しく過す方が糞使たちにも気性的に合っていたので、糞使たちは皆、ガブリグソの意見に賛成し、ブリューワ捜索は後に回されました。
「クソーラ様、どうせならば神殿の再建を優先し、その後ブリューワ様を救い出すという事で宜しいでしょうか」
「そうですね、急ぐ必要はありません」
 こうしてブリューワは糞の中に身を沈めたまま、しばらくの間放置される事が確定しました。糞神からしてみれば災難な話ですが、自業自得ですから仕方がありません。
「クソクレスよ、あなたには猶予を与えました。頑張って人の世を正すために全力を尽くすのですよ」
 クソーラの温かい采配により、クソクレスには時間が与えられました。
 神の子であろうとも、人の子であろうとも、生あるものは、誰かに見守られながら生きているという事に変わりはないのです。
 騒動から七日の時が流れました。
 幸いブリューワの引き起こした災難はヘガデルにとって致命的なものではなく、一部の建物や中央の広場を破壊しただけで、村人たちの懸命の努力による復興は着々と進められていきました。
 そしてブビュウムをはじめとするヘガデルの人々は一番初めに、聖糞堂の建設に取り掛かりました。
 糞を蔑ろにしてきた過去を反省して、ヘガデルの谷の一番高いところに、大きな祠を祭ったのです。それは決して豪華な祠ではありませんでしたが、ヘガデルの民が心を込めて造り上げた祠でしたから、クソクレスは満足して着工を見届けました。
 そしてまたクソクレスは、ヘガデルの民に、聖屁教の布教を認めました。
 これはブビュウムたちヘガデルの住民にしても驚きでした。今まで聖屁教に傾斜するあまりに糞をないがしろにしてきたのですから、邪教であると宣言され、禁止令が出されても、文句を言える立場にはなかったからです。
 ですが、糞の教えとは、糞の有り難さのみを人々に強要するものではありません。
 糞の存在を常に感謝し、教えを守り続ける限り、聖屁教自体には、何ら問題はありません。
 クソクレスは先の騒動で屁に対する認識を改めました。考えてみれば糞も屁も、同じ肛門から発せられる兄弟のような間柄です。糞の教えを大切にして貰えるのであれば、屁の文化は文化として認めなくてはならないと、クソクレスは考えたのです。
 ブビュウムの館の屋根裏には、クソクレスにあてがわれた一室がありました。
 クソクレスは部屋にブビュウムと村の長老数人を呼びつけ、告げました。
「但し、今後また屁の存在を糞の上に置く事があれば、ヘガデルの民には大いなる災いが降り注ぐであろう。年月が積み重ねられ、再び糞の教えを疎かにする事があれば、汝らの子の、そのまた子の、そのまた子の、そのまた子の、そのまた子の、そのまた子の代において、死の災難が降り掛からん」
「私たちの子の、そのまた子の、そのまた子の、そのまた子の、そのまた子の、そのまた子の代に置いてですね」
 ブビュウムは子の代の数を確認しました。そこにフンダが訂正の言葉を掛けました。
「違う、汝らの子の、そのまた子の、そのまた子の、そのまた子の、そのまた子の、そのまた子の、そのまた子の代だ」
 しかしこれはフンダの方が間違いだったので、クソクレスはフンダに構わず言葉を続けました。
「立派な聖糞堂を建てればそれで良いというものではない。汝らは、その子孫が続くまで、末代に至るまで、永遠に、糞の教えを守り続けねばならないのだ。これは、ヘガデルに課せられた義務である」

-つづく-

 ブビュウムとその傍らの長老たちは神妙にクソクレスの言葉を受け止めました。
 そして永遠の誓いを述べ、脱糞しました。
 これによりヘガデルは、屁の文化を保持しつつも、糞の教えの下に形成された聖糞(せいふん)都市へと衣を変えたのです。
こうして一つの村が、救われました。
「では、これから村を出ようと思う。世話になったな、ブビュウム殿」
「え、もう、でありますか」
「うむ」
 ヘガデルの民が忠誠を誓い、糞の有り難味を理解した以上、これ以上ヘガデルに留まる道理はありません。クソクレスには、糞の教えを下界に広め正すという使命があるのです。
 クソクレスはフンダに旅の支度を告げました。
 フンダはブビュウム邸におけるお客様暮らしがとても楽で気にいっていたので難色を示しましたが、確かに何時までもこの村に留まる事もできないので、ぶつぶつ言いながらもブビュウム邸の一階にあてがわれた自分の部屋に荷物をまとめに戻りました。
 フンダは、屋根裏は階段の上り下りが面倒な上に虫が多くて寝苦しいので、裏庭にいるアヌスミラブリス号の世話をしなければならないという名目をつけ、一人、一階の日当たりの良い大きな一室を借りていたのです。しかし、実際にこの七日間アヌスミラブリスの世話をしてくれていたのはバビュウムとズビュウムの兄弟二人だったのですが、これはこの物語に直接の関係はありません。

「いざ行かん、アクソポリスへ」
 クソクレスがアヌスミラブリス号の馬上でそう宣言すると、広場に集う見送りのヘガデル住民の間から轟々たる大歓声が巻き起こりました。そして、クソクレスたちは村を後にしました。
 谷を越え、森を越え、濁流の跡を越えると、やがてクソクレスの一行は大きな桜木の前を通りかかりました。
 その時です。
「ブフッ(訳者注:屁音)」
 桜木の枝の上から、大きな屁の音が聞こえます。
 クソクレスが苦笑いをして見上げると、そこにはバビュウムの姿がありました。

-つづく-

「誰だお前は。クソクレス様、狼藉者です」
 一週間も世話になったのにも関わらず、バビュウムの顔を、フンダはちゃんと覚えていませんでした。
「ははは、冗談はよせ、フンダ」
 冗談のつもりではなかったのですが、クソクレスにそう言われたのでフンダもクソクレスに微笑みを返しました。
「クソクレス様、お願いがあります」
 桜木から飛び降りたバビュウムは、一転して神妙な面持ちでクソクレスに訴えかけました。クソクレスの威光とその寛大なる人柄に心を奪われたバビュウムは、クソクレスに仕えたいが一心で弟子入りを志願したのです。
「父ブビュウムにも俺の意志は告げました。クソクレス様にお仕えする事で、自分を磨き、そしてまたいつの日かヘガデルに戻り、糞と屁の教えを人々に伝えたいのです。それに、ヘガデルもズビュウムもクソクレス様に救われました。クソクレス様のお世話を通じて、ヘガデル村の一員として、代表してご恩をお返したいと思います」
 無論、クソクレスに異論はありません。
「フンダよ、この少年とともに歩むのも良いのではないか」
 フンダは、少年が旅路に加わる事により自分の仕事が楽になると瞬時に判断しました。
「全く問題はありません」
 誓いの脱糞の後、クソクレスの一行に、少年が一人加わりました。
「ところで、お主の名は何だ」
 フンダはまだ、バビュウムを思い出せません。
「ははは、冗談うまいね、フンダさん」
 三人と、一頭の旅が始まったのです。
 アクソポリスは遠い町です。
 クソクレスはヘガデルを出発する際に、ブビュウムにアクソポリスへの路程を尋ねたのですが、アクソポリスという町は聞いた事はあるが、地理的に遠すぎてヘガデル以西と交流がなく、ヘガデルにそれを知る者はいないとの回答でした。
 途中の砂漠地帯(訳者注:正確には遠い昔、糞神ブリューワにより形成された糞漠地帯である)には見渡す限り荒れた黄土が続くだけで、たまに存在するオアシスで水や食物を補給するしかありません。神の子であるクソクレスはともかく、下界の生物であるバビュウムやアヌスミラブリス、そして神の一員ではあれども、根性に若干の弱点があるフンダにとって、これはとても辛い旅路と言えました。
 そしてとうとう手持ちの食物が底を尽き、いよいよ旅の苦しさは佳境に入ってきました。
 とうの昔に歩くことを拒否したフンダはアヌスミラブリスの馬上で舌を出しながら、ぐったりと前へ倒れこんでいました。バビュウムも歩いては止まり、歩いては止まりの繰り返しで、なかなか先へ進めません。
 アヌスミラブリスも苦しそうです。時々背中にフンダを載せるのを拒否して地面に振り落とすのですが、こういう時は根性を見せるフンダはその度にアヌスミラブリスの背中に這い登り、遂にはアヌスミラブリスも抵抗を諦めました。
 クソクレスも大地に眠る糞のエナジーを吸収して持ちこたえてはいるのですが、なにぶん太古の昔に造られた砂漠ですので十分な糞力を引き出せません。
「風の匂いです。クソクレス様、この近くに泉があります!」
 突然フンダが叫びました。
 もっともここ数日のフンダは幻覚をよく見るのか、風を感じた、泉を感じたと叫んでもその殆どが幻であったりするのですが、五回に一回は本当だったりするのでクソクレスも無視できません。
「どちらに感じるか」
「ええと、わかりませぬ。しかし、感じたのです」
 一事が万事この調子なのでクソクレスも大変ですが、今回は違いました。
 クソクレスの鼻にも、冷たい風の匂いが届いたのです。
「皆のもの喜べ、確かにこの地平線の先に泉を感じる。さあ、行こう」
 バビュウムも、クソクレスがそうはっきりと口にしたのでもう一度気力を奮い立たせて歩を進めました。同じ言葉をフンダが口にしても心が奮い立つ道理は有りませんが、クソクレスの言葉なら確実です。
 アヌスミラブリスの歩調も心なしか強く感じられます。
 クソクレスもバビュウムに倣い、背をきちっと伸ばし、体中に気合を込めて歩みをはじめました。
 フンダは突っ伏したままです。
 そしてその日の夕刻、とうとう一行はオアシスに辿り着いたのです。

-続く-

「水だ!はいよーっ、アヌス」
 突然目の光を取り戻したフンダが気合をかけると、アヌスミラブリスも全力で泉に駆け寄ります。
「待ってくれよ、俺も!」
 バビュウムも現金なもので、その後を力強く追っていきました。
 クソクレスも苦笑いを浮かべつつ、その後を小走りに追いかけます。
 初めに泉に辿り着いたのはフンダです。
 水面に駆け寄ると、フンダは首を泉に突っ込み、がぶがぶと水を飲み干していきます。文字通り首から上を水に突っ込みながら飲み干しているので、端から見ると若干不気味な光景ですが、これもフンダならではの行為でしょう。
 バビュウムも、アヌスミラブリスも、たくさん水を飲みました。アヌスミラブリスは元気を取り戻したのでしょうか、水を飲みながらもぶりぶりと排便を続けています。
 と、その時です。
「ああ、い、痛い……いてぇ」
 突然バビュウムがお腹を押さえて苦しみだしました。
 遅れて泉に到着したクソクレスが心配そうに駆け寄ります。
 空腹に突然大量の水を含んだためお腹を下してしまったのです。バビュウムは苦しそうに横になりました。
 アヌスミラブリスもがぶがぶ水を飲んでいるのですが、ここはさすが名馬であると言うべきでしょう。不必要な水分は大腸にまわされて、脱糞の一部となり流れ出ていきます。その証拠に、ぶりぶりと続く一本糞の途中から、糞が柔らか味を増してきたのが傍目にもはっきりと分かります。
 一方横を見ると、バビュウムと同じように、フンダもお腹を押さえてのた打ち回っています。
こちらは単に飲みすぎで、胃袋の許容範囲を越える量を一度に飲んだために、臓物が破裂しかかっている様子です。
 介抱が急務であると判断したクソクレスは、まず二人を並べて、泉の脇にある木の枝をもぎ取り、それを擦り合わせて火をくべました。そして続けて荷物から取り出した数種の薬草をすり潰し、調合を行いました。
 そうしてでき上がった薬剤を草に包み、少しだけ泉に浸して柔らかくした後、ゆっくりと二人の口元に運んであげるのですが、お腹が一杯になっているフンダはそれを受けつけずに天高く吐き出してしまいます。仕方がないのでクソクレスは、フンダは放って置く事に決めました。
 問題はバビュウムです。
 神の子ではなく、しかもまだ子供のバビュウムは一気に体調を崩して熱を出してしまいました。平たくいうと、死にそうなのです。

-つづく-

 傍らでは、アヌスミラブリスも心配そうにバビュウムを見守りながら脱糞を続けています。
その脱糞はフンダの顔の上に落ち大きなとぐろを巻いているのですが、アヌスミラブリスもバビュウムが心配なのでしょう。心なしか元気のないとぐろ具合です。
「クソクレス様、俺、死ぬのかな」
 体が弱ると心も挫けるのか、バビュウムは弱気な一言を口にしました。
「クソクレス様、お助けを」
 顔の上にとぐろを浴びせ掛けられたフンダも窒息死寸前です。
 クソクレスがフンダの顔面にこびり付いた馬糞を取り払ってあげると、フンダは窒息死こそ免れるのですが、やはり内臓が痛いのか今度は奇声を上げて痛みを訴え続けます。
「バビュウムよ、ただ発熱を伴うだけだ。ゆっくりと体を休めるが良い」
 クソクレスは腰巻を外すと、バビュウムの体にそれを掛けてあげました。


 翌日、ただの飲み過ぎで苦しんでいただけに過ぎないフンダは、もうけろりとしていました。
 しかしバビュウムの熱はまだ下がりません。それどころか益々体温が上がり、本当に死の影も見えてきそうな状態です。
「人間はだらしないですね、クソクレス様」
 フンダがあっけらかんと言い放ちます。
「フンダよ、人であれば人の、神であれば神の、馬であれば馬の特性がある。それぞれがそれぞれの特徴を持ち、短所を持ち、長所を持っている。人の子であるバビュウムが、神族である我々よりも体が弱く、怪我や病気に弱いのは仕方がない事だ」
「さすがクソクレス様。すると神の一員であるこの私フンダも他者にない素晴らしい長所を持っているという事ですな」
 クソクレスは特にそれには答えずに、バビュウムに与える薬の調合を続けました。
 バビュウムは意識が朦朧としてきた様子です。クソクレスは、今夜が山だと思いました。ここがバビュウムを救えるか否かの境目です。


 太陽が落ち、オアシスに夜が訪れました。
 バビュウムはまだ苦しそうです。
 その横で、フンダも横たわっていました。
 どうも泉の水は、幾ばくかのおかしな菌にでも汚染されていたのでしょう。朝も昼も夕暮れもがっついて泉の水を飲み続けていたフンダも結局再び体調を崩し寝込んでいたのです。
 アヌスミラブリスは脱糞に菌を逃している様子で全くおかしな兆候は見られません。全く大した名馬です。
 しかし、二人の様相は深刻です。
 クソクレスは、天のクソーラに祈りを捧げました。
「母クソーラよ、私の力では、二人の従者を救う事ができないかもしれない。身近なる旅の仲間をも救えずして世を正そうなどと、私の言葉はただの思い上がりであったのか」
 クソクレスの言葉はこだまする事もなく、闇夜に溶けて行きました。

-つづく-

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