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糞神の子クソクレスが人の世に降り立った。栄光の神話を君に。

降臨


序章:糞と、人の標
第一章:クソクレスの旅立ち
第ニ章:金の糞と銀の糞(1)
第ニ章:金の糞と銀の糞(2)
第ニ章:金の糞と銀の糞(3)
第三章:北の厠(1)
第三章:北の厠(2)
第三章:北の厠(3)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(1)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(2)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(3)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(4)
第五章:ヘガデル村の少年(1)
第五章:ヘガデル村の少年(2)
第五章:ヘガデル村の少年(3)
第六章:糞と屁の攻防(1)
第六章:糞と屁の攻防(2)
第六章:糞と屁の攻防(3)
第六章:糞と屁の攻防(4)
第七章:伸びる糞(1)
第七章:伸びる糞(2)
第七章:伸びる糞(3)
第七章:伸びる糞(4)
第七章:伸びる糞(5)
第八章:糞の誓い(1)
第八章:糞の誓い(2)
第八章:糞の誓い(3)
第九章:糞を食らうもの(1)
第九章:糞を食らうもの(2)
第九章:糞を食らうもの(3)
第九章:糞を食らうもの(4)
第十章:アクソポリス(1)
第十章:アクソポリス(2)
第十章:アクソポリス(3)
第十一章:大の教えと小の教え(1)
第十一章:大の教えと小の教え(2)
第十一章:大の教えと小の教え(3)
第十一章:大の教えと小の教え(4)
第十一章:大の教えと小の教え(5)
第十二章:小便の大隊(1)
第十二章:小便の大隊(2)
第十二章:小便の大隊(3)
第十二章:小便の大隊(4)
第十三章:二つの奇跡(1)
第十三章:二つの奇跡(2)
第十三章:二つの奇跡(3)
第十三章:二つの奇跡(4)
第十三章:二つの奇跡(5)
第十三章:二つの奇跡(6)
第十四章:厠は二つ(1)
第十四章:厠は二つ(2)
第十四章:厠は二つ(3)
第十四章:厠は二つ(4)
第十四章:厠は二つ(5)
第十四章:厠は二つ(6)
第十四章:厠は二つ(7)
第十五章:炎の日(1)
第十五章:炎の日(2)
第十五章:炎の日(3)
第十五章:炎の日(4)
第十五章:炎の日(5)
第十六章:糞は舞い降りた(1)
第十六章:糞は舞い降りた(2)
第十六章:糞は舞い降りた(3)
第十六章:糞は舞い降りた(4)
第十六章:糞は舞い降りた(5)
第十六章:糞は舞い降りた(6)
第十六章:糞は舞い降りた(7)
第十七章:己が意志(1)
第十七章:己が意志(2)
第十七章:己が意志(3)
第十七章:己が意志(4)
第十七章:己が意志(5)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(1)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(2)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(3)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(4)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(5)
第十九章:約束の地(1)
第十九章:約束の地(2)
第十九章:約束の地(3)
終章:糞は友達(1)
終章:糞は友達(2)
終章:糞は友達(3)
終章:糞は友達(4)

解説


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 フンデル王が急逝した事により、城の大広間は上に下にと混乱しています。
 どさくさに紛れて、フンデル王に代わり玉座にシャワーズ族出身のゲイリーが鎮座しているのが何よりもその表れでした。これではシャワーズ族に対し知能的に優れているという、アクソポリス最大のメリットが生かせません。
「フンデル王よ、汝の魂は地平を越え、天なる糞界に昇華されよう。
 心安らかに眠るが良い」
 広間の片隅で、クソクレスはその目を真っ赤にして、フンデル王の死を悼みました。

「伝令。中央の公衆便所の一帯まで、一部の騎兵が闖入した模様です」
「槍兵は正門へ、弓兵を援護せよ」
「シャワーズ族の大多数を、弓兵の活躍によって正門で足止めさせ倒しておりますが、過去最大数の軍馬の侵入を許した模様です」
「城外の敵は構うな、中を固めろ」
「老兵も前に出せ、こちらの分断を阻止しろ」
「城内に至る敵の総数は、八十騎ほどと思われます」
「敵兵に飲尿を強要された大通りのパン屋の娘が、その衝撃で心臓麻痺に陥り重体です」
「西方方面部隊を正門に回せ、シャワーズ族の軍馬に対しては馬脚を狙え。足を切りつければ血がどばどば出る。人間は体の血の半分を失うと失血死するそうじゃ。馬はどうだか知らんがの。ちなみにわしの経験によると、白身魚は体を三枚に切り落とし骨だけになっても数刻生き延びる。あれは見ていて気持ちの良いものではないな。九つの時、わしは裏の農家で飼っていた家猫でそれと同じ実験をしてみたのだが、首筋に包丁を入れただけで絶命しおった。いや、あの時は裏の親爺が怒るの怒るまいの。わしは一晩中殴られてその三日後まで意識が回復しなかったわい。まあこれも若気の至りというやつかな、はっはっは」
「それは興味深い話を聞いた。私も今度、鯉か鮒かで試して見ましょう」
 大広間の喧騒を背に、クソクレスとバビュウムは、フンデル王の遺体を地下の安置場に降ろしました。
 冷たく糞が敷き詰められた床に、フンデル王の遺体は捧げられました。
「フンデル王よ、己が信仰は、確かにこのクソクレスが受け取った」
 戦中とは言え、偉大なるアクソポリスの王フンデルの亡骸を放って置くなどクソクレスにはできません。糞を信ずる人間が確かにいたという安堵感は、クソクレスの希望の光でもあったのです。
 しかしもはやフンデル王はその目を開く事もなく、ただ屍として、クソクレスの前に横たわるのみでした。

-つづく-

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「バビュウムよ、祈りなさい。そしてフンデルという一人の王がいた事を、その心に刻みなさい」
 バビュウムも、別れの糞を握り締め、王に言葉を掛けました。
「さようなら、王様」
 これほどの人物が、何と寂しい最後でしょう。
「またいつか、輪廻の果てでの邂逅を誓って。偉大なる王よ、今はただ安らかに眠るが良い」
 クソクレスの唇に震えが伝わるのがバビュウムには分かりました。
 その間にも、シャワーズ族の攻勢は続いていました。
「囲めよ、ジョルジーノの小隊は展開せよ」
 シャワーズ族の中にあって大隊長ベンジャーは、蛮勇ではあっても決して馬鹿ではありませんでした。
 ベンジャーの本隊は数こそ少ないのですが、一人の脱落もなく進軍を続けていました。立ちはだかる兵や軍馬を薙ぎ倒し、傍らの大きなボウガンで、次々にアクソポリスの弓兵を先んじて射抜きます。
「城内に突入できた軍馬の数は少なくとも、王宮さえ落とせばアクソポリスは陥落する。これより王宮を包囲する。一気に本部を落とすぞ。シッコネンは左翼を。ジョルジーニョは右翼を。俺は正面で囮になる。間隙を突き、両翼より王宮に侵入せよ」
 どうやら物事には何事においても例外が付物で、ベンジャーの頭脳にはシャワーズ族らしからぬ知性が備わっている様子です。きっと普段はシャワーズ族の中で一人寂しい思いをしている事でしょう。ちなみにフンダも神族の一員ですが、これも例外と捉えた方が良さそうです。
「糞は、在ってはならぬのだ。我が家族のためにも。さすれば俺が、この手で王を討つ」
 ベンジャーはまだ、フンデル王の死を知りません。
「うわ」
 ベンジャーの脇を固めるシッコネンの馬に、大きな糞壷が次々と投げつけられました。戦いに駆り出されたフンデル王の身の回りを世話する小間使いの少女たちが必死の抵抗を試みたのです。中身の詰まった糞壷は、なかなかの破壊力を見せ付けます。
「退け、貴様ら」
 シッコネンは背中の斧を取り出して、少女たちの列に馬を突撃させ、今正にそれを振り下ろさんとしています。
「きゃああ」
 それを救ったのは、他ならぬベンジャーでした。
「シッコネン、女、子供には手を出すな」
「ですが、壷とて武器になります。こちらの馬がやられます」
 しかしベンジャーの誇りは、それを許しません。
「貴様もベンジャー本隊の中核ならば、敵兵を御して突破せよ。民間人は事後、時間をかけて改宗さすれば良い。無駄な血を流すのが軍人の役目ではないぞ」
「はっ」
 シッコネンはくるりと一人の少女に背を向けて、ベンジャーの援護にまわりました。
 その命を救われた少女こそ、モレッタでした。

-つづく-

 アクソポリス兵も必死の反撃を試みます。西方からゲイリーの指示により一個中隊が駆けつけてきたのですが、彼らは指揮系統と上層部の問題でどうしても上手く敵を取り囲めません。問題とは、ゲイリーの存在です。
 逆に王宮の正面を護衛するアクソポリス部隊の矢は、味方である西方方面部隊の人馬に突き刺さり、仲間の間で射抜き合うという不始末で一向に戦果が上がりません。
「うわーっ」
 ベンジャーの前に、アクソポリス騎兵の骸が転がります。
「しめた」
 ベンジャーは馬上から器用にボウガンでアクソポリス兵の兜を掬うと、自らの兜を脱ぎ捨てそれを被りました。ベンジャーの機転に気が付いたジョルジーニョの小隊が王宮正面に舞い戻り、ベンジャーと絡み合うようにして城の正面に傾れ込みます。
 アクソポリスの兵からすれば、敵味方の絡み合いにしか見えません。
「味方か」
「いやシャワーズの、うおっ!」
 同士討ちを恐れるアクソポリス兵が一瞬その手を緩めると、左翼に回ったシッコネン小隊の矢が彼らを次々に射抜いていきました。戦場では、僅かな逡巡が死を招きます。とうとう、王宮の正面の一角が崩れました。
「突破するぞ、ベンジャー大隊長殿に続け、ああ!」
 アクソポリスも負けてはいません。何人もの弓兵の放つ矢が同時にジョルジーニョの首を横から貫きました。
 しかし、ベンジャーに迷いはありません。
「即死ならば痛みも感ずるまい。さらばだ、ジョルジーニョ!」
 傍らのシッコネンのボウガンが、王宮の正面を固める兵を、次々と打ち抜いていきます。
 とうとうアクソポリス城は、ベンジャーと数名の部下の侵入を許しました。
 アクソポリスの王宮は狭く、簡単なつくりです。それに、古今東西、王宮と呼ばれる建築物のつくりには決まった系統があります。見晴らしの良い天辺に王が住まい、王宮の下方にある大き目の場所が取れる広間が有事の臍となるのです。そして、大切な人間が居る所であるほど、警備の層が厚くなります。
「ここか」
 ベンジャーの突入したその場所こそ、他ならぬ大広間でした。
 アクソポリスに、最大の危機が訪れました。
 アクソポリスの王宮にはためく糞色の王旗が夕日に溶け込んでいく姿は安らぎに満ちていて、人の世の愚かさをも忘れそうになります。
 クソクレスは王宮の頂上にバビュウムを引き連れて、眼下の血塗られた光景を見下ろしました。命の奪い合いは、果てしなく続いているようです。
 ひと時の間をおいて、クソクレスは傍らのバビュウムに問い掛けました。
「邪心に溢れ、真なる信仰を捨てて、それでも人は生き歩めるものか。バビュウムよ、糞を忘れたその時代、ヘガデルの民は幸せだったのか」
「俺たちは、糞を忘れながらも生きて来ました。しかし、忘れながらも、糞はいつも身近なものであったし、糞は肥料として、農耕の糧として、大切に取り扱って参りました。快便の後にはその爽やかさを享受し、便秘の際には糞がどれだけ人の体に大きな影響を及ぼすか、どれだけ大切な存在であるのか、俺たちはみんな本能でそれを感じ、理解していたと思います」
「そうか。ではまた我、汝に問う。シャワーズの民に、脱糞はあるか」
「人の子である限りありましょう」
「ではまた問う。シャワーズの民の糞は、何処へ行くのか」
「海へ行きましょう。海に沈みし糞は糧となり、それにより海は生き、魚が生まれ、育ち、そしてそれは人の糧として輪廻しましょう。糞がただ糞であろうなどと、俺はそんな事は信じません」
 クソクレスは、必死になって考えて、答えようとするバビュウムに笑みを返しました。
「私は人の世に絶望はすまいと決めた。しかし、希望のために成すべき仕事がある。バビュウムよ、見よ、そして感じよ。時間をかけても構わぬ。私の行為を通し、破壊と創造の果てに何が存在するのかを考え給え」
 バビュウムは、ごくりと唾を飲み込みました。
 クソクレスの両の手が大きく振りかぶされると、夕焼けに映える雲々が、荒々しくアクソポリスの真上に集い始めました。
 空に集う大きな雲の姿はやがて一つの壁となり、天空を覆いました。
 そしてクソクレスがゆっくりと手を下ろすと、一つとなった雲の壁は、中心から竜巻の如く形を崩し、大きな槍のような姿となり、ゆっくりと降下をはじめました。
「クソクレス様、あれは」
 はじめて見るその光景にバビュウムの唇が震えます。
「竜巻?いや、違う、あれは雲じゃない。糞だ、糞の塊だ」
 バビュウムは、唾を飲み込みました。
「糞の剣だ」
「見よ、バビュウムよ。雲もまた、糞なのだ」
 糞の矢が、降下を続けます。

-つづく-

「フンデル王、お覚悟を」
 ベンジャーの構えたボウガンの先には玉座らしき豪勢なつくりの椅子がありました。
 しかしそこに鎮座する男は当然フンデル王ではありません。
「うおわああ、来たぁ。 わ、わしは」
「ま、待て、私は関係ない。討つのならこの老人を討て」
「それはないだろう、フンダ君」
 ベンジャーの構えが止まり、震えます。
「あ、あなたは。な、何故、王の玉座に」
 ベンジャーの目が戦慄(わなな)き、その構えた腕は明らかに焦点を絞れず揺れ動きました。
「はて、どなただったかのう」
 そのゲイリーの一言に、ベンジャーの全身の血液が逆流し、臓物中の糞が震えました。
「お、俺を忘れたと言うのか。
 ジャボールに抗う事もせず、糞の教えを衰退させ、酒に溺れ、愛人を囲み、その追求を逃れ、家を捨て、シャワーズ族を見捨てて脱走したその貴様が、自分の息子の顔を忘れたと言うのか!」
 ベンジャーの突き刺さるような絶叫が、大広間に響き渡ります。

「ゲイリー殿、随分話が違いますな」
 沈黙を破ったのは、フンダの一言です。
「な、何を馬鹿げた事を。こ、この狼藉者は、一体何を言っておるのかな」
 しかし、顔中に脂汗を滴らせ、蒼ざめた表情で正面のベンジャーから視線を逸らすゲイリーの姿を見ていると、不思議な事にどちらが正しい事を言っているのか良く分かるのが人生の面白いところです。
「天誅」
 激情が殺意に至るまでに、然程の時間は有りませんでした。
 ベンジャーの矢が、ゲイリーの脳を貫きました。
 フンダは、ゲイリーの放った血飛沫をもろに顔面に受けてしまい、何だかとても嫌な気分です。
「そなたに問おう」
ベンジャーの視線がフンダに移りました。冷や汗が背中を伝います。フンダは、自分がとんでもない危機の最中にある事を悟りました。

-つづく-

 長老が殺されたのですから、本来ならばこの侵入者を一気に皆で殺しにかからねばならないところなのですが、何故かそんな雰囲気ではありません。これはゲイリーの不徳の成すところでしょう。
「フンデル王は、何処だ」
 ベンジャーの眼光が、フンダを討ちます。
「は、はい。フンデル王は、先ほど御崩御なされました」
 相手が強そうだと、フンダは弱気です。
「死ん、だ?」
「はい、間違いなく」
「は、ははは。死んだ、のか。ははは、ならば、私の役割は終わりだ。
 は、ははは、ははははは」
 フンダは、この男の頭がどうにかなったのだと思いました。こういう輩はまともに相手をすると危ないので、誰か自分に代わって他の人がこの男の相手をしてくれないかなと、心の中で強く願ったのですが誰も代わりになってくれません。仕方がないので、フンダも引きつった笑顔で愛想笑いを返しました。術(すべ)のない男というものは弱いものです。
 その時です。大きく王宮が揺れ、大地が弾んだのは。
「何だ」
 ぐらぐらと、大きく大広間が揺れ動きます。
 ベンジャーも辺りを見回し、視線をフンダから逸らしました。
 それを見逃すフンダではありません。一瞬の間隙をつき、フンダは目にも止まらぬほどの速度で大広間の陰に身を移すと、そのままお城の裏庭まで全速で力走し、そこに繋がれながら脱糞を続けているアヌスミラブリス号の背に跨りました。そしてそのまま気合をつけると、アヌスミラブリスは地響きの続く中、猛烈な駆け足にて走り出していきました。
「走れアヌス、地の果てまでも!」
 フンダの逃げ足は天下一品です。
 しかし、その間にも、地響きは鳴り止むことはありません。
 そしてその地響きは、クソクレスの引き起こした奇跡に他ありませんでした。

-つづく-

 糞は万有の元素です。
 糞の大部分は土となり、地を形成します。地は人となり、死して土となり、糧となり、草となり、肉となり、やがてまた人となります。(訳者注:輪廻とも言う)また糞に含まれた水滴は汗となり、尿となり、川となり、海となり、雲となり、やがて糞に戻ります。
 神の子たるクソクレスは、糞に関わるもの全て、即ち万有を、己が力とする能力を備えていました。
 しかしまだ、クソクレスには偉大なる父ブリューワほどの強大な能力はありません。
 ですから、糞の要素がかなり薄れた状態である天体の雲を媒体として、天から地に達しようかという巨大なる糞の剣(ク・ソード)を作らせたのは、フンデル王を偲び思うクソクレスの優しさと、強い意志によって生み出された代物であると言えましょう。
 ク・ソードはアクソポリスの正門をめがけて大きく軌道を取り、都市の正門に固まるシャワーズ族の馬軍の群れを目掛けて降下していきました。
 大空からもりもりと湧き出た剣は、異教徒を混乱と恐怖の底に叩き落としました。
 優に万を超す馬軍の群れは、必死になって上空より出でたるク・ソードを交わそうとするのですが、仲間同士の揉み合いにより、なかなか散り散りになれません。
 その群衆の中央目掛けて、長く長く、太く、そして鋭く姿を変えた、つい先ほどまで天空を彩る雲であった糞の剣は、シャワーズ族の兵士たちを目掛け、激しく打ち込まれていきました。
「うわあああああ」
 成す術もなく、多くのシャワーズ族の兵たちが、ク・ソードの餌食となりました。
 一瞬にして万を越える人馬の命を奪った剣の破片は、その地面に叩きつけられた際の衝撃により、兆を越す細かな跳ね糞となり、アクソポリスの城内といい、城外といい、水平線の彼方といい、ぐしゃぐしゃに飛び散っていきました。
 それを見たシャワーズ族の残存馬たちは、恐れをなし、恐怖に打ち震えながら、シャワーズの半島に一頭残らず駆け戻って行きました。生き延びた多くの兵士たちは馬上より振り落とされ、また振り落とされぬまでも、馬体にしがみ付く他に成す術もなく、ばらばらの方向に消え散って行きました。そして地面に叩きつけられた騎兵は皆、アクソポリス兵の弓と槍に貫かれ、死んで行きました。
 万を越える、ベンジャー率いる大軍は、こうして壊滅したのです。

-つづく-

 数刻の後、王宮から降りたクソクレスの眼前には、捕虜となり、集団の私刑を受け、地に転がる幾人かのシャワーズ族の姿がありました。
 その一角にはまだアクソポリス市民により、数人の兵士を数十の集団で取り囲む姿も見受けられます。
 クソクレスは眉をひそめながら輪に入っていきました。
 よく見ると群衆と一緒になって殴る蹴るの暴行を続けるフンダの姿もあります。クソクレスは諌めの言葉を投げ掛けました。
「戦いは終わった。それ以上血を流す事もあるまい」
 暴徒の中で、その言葉にいち早く反応したのはフンダです。
「クソクレス様のご采配である。皆のもの、その振り上げた拳を下げい!」
 そう言うフンダの拳が一番血に染まっていたのですが。
 ふとクソクレスが足元を見ると、そこには半死のベンジャーが転がっていました。
「クソクレス様、こやつが敵の大隊長ベンジャーです。私も殺されかけました」
 興奮した面持ちで、血塗れの拳を握り締めながらフンダが訴え掛けます。
 クソクレスは、虫の息のベンジャーに問い掛けました。
「神の子クソクレスである。汝、なにゆえ何故に糞を捨てた」
「、、、」
 ベンジャーは答えません。
「ならば死をもって償うが良い」
 クソクレスもまた、興奮が収まり切ってはいませんでした。
「お待ち下さいクソクレス様」
 目に涙を浮かべて飛び出てきた少女は、モレッタでした。
「私はこの方に命を救われました。糞の教えを捨てた邪教徒であれ、人の子です。命を奪う事でしか、償いの術はございませぬか」
 絶え絶えの息で、ベンジャーが呟きました。
「止しなさい、お嬢さん。俺は確かに、糞の教えを捨てたのだ。そして、何人も、殺した。
糞を捨てる事によってで、しか......俺に生きる道はなか...った。償いは......死によって、で、し...か......」
 ふとクソクレスが手をあてがうと、ベンジャーの精気が少しだけ蘇りました。
「今暫くの猶予を与えよう。続けよ、そして語れよ。汝、いつなんどき何時、何故に糞を捨てた」
 ベンジャーは、答えません。
「汝の言葉には、悔いと絶望と、諦めの心を感じる。しかし、答えぬならば、亡き王フンデルの為にも汝に死を与え給わざるを得ぬ」
 クソクレスの手には、いつの間にか糞棒が握り締められていました。これを振り下ろせば、ベンジャーの命もいちころです。
「答えて、ベンジャーさん」
 モレッタの叫びがベンジャーの耳を打ちます。

-つづく-

 女の子の叫びは、神の言葉にも勝るのでしょうか、ベンジャーは、ゆっくりと口を開き始めました。
「職務を放棄した父ゲイリーが、シャワーズを捨て、アクソポリスに去った後……我々親族は迫害を受ける日々が続いた。母は病に倒れ、叔父や親戚たちも次々と死んでいった。俺に残されたものは、僅かに残った親族と、仲間たちだけだった」
「それで糞を捨てたか」
「妻と、子がいる。
 俺には、糞を捨て、地獄に落ちようとも守り抜かねばならぬものがあるのだ。だから俺は、小便に心を売った」
 職務を放棄したゲイリーという部分が気になります。
「聞いた話と大分違う気がするな。フンダよ、ゲイリーとともに流れ着いた、聖職者ブリウスは何処に行った」
「戦いに巻き込まれて、亡くなられた模様です」
「あっそう……」
 いざという時に役に立たない脇役です。
「糞を討てば、たとえ俺が死んでも妻と子に軍功が与えられる。だから、俺は喜んで大隊長の地位を受けた。多くの仲間を犠牲にしてでも、そのために戦った。
 だから、俺は地獄へ落ちるのだ。俺自身が選んだ道なのだ」
 モレッタの頬に涙が零れ落ちます。
 フンダも、バビュウムも目を真っ赤にして震えていました。
 ベンジャーは、糞を捨て切ったわけではないのです。
「大隊長っ」
 やはり捕らえられていたシッコネンも、言葉がありません。
 クソクレスは、大きく空を仰ぎました。どうすれば良いのか分からない、それ故、母クソーラの声を聞く為に。
 しかし、クソクレスの耳にクソーラの声は届きません。その代わりに、やはり父ブリューワの苦しそうな呻き声を耳にした気はしたのですが、これはこの際無視しました。
「私が方策を選ばねばならぬという事か。
 ならば母クソーラよ。私は甘い男と笑われようとも、私自身の意思に従い、この男に贖罪の時を与えます」
 クソクレスは、己の優しさが甘過ぎるものと自覚しつつもそう心に決めました。
「我は神たる神の中の神、糞神ブリューワの子クソクレスである。
 己が意志を信じ、遠い時の輪の果てに、我の手で、糞の世の未来を統(す)べんが為に、我は我自身の意志に従わん」
 クソクレスの体から、人の目にも分かるほどの黄金色の後光が沸き起こりました。
「これは、真なる糞の光。クソクレス様!」
 フンダは、自分が生きている間に、これほどまでに美しく、そして大きな黄金色の後光を拝む事があろうとは、全く想像していませんでした。そしてフンダにも、クソクレスの放った光の中に、クソーラの微笑みが見えた気がしました。
 クソクレスの両の眼から流れ出でたる大粒の涙が地を包むと、それは大きく、大きく広がり、空の果てまできらきらと、輝くように昇華していきました。すると、ベンジャーやシッコネンたちの体からは傷が消え、痛みが消え、更にすると何か温かく、懐かしいような感覚が、その場の全ての人々を包み込みました。
「ク・ソード、そして…生命(いのち)の光」
 バビュウムの胸に、クソクレスの心の痛みが刻み込まれていきました。
 数日もするとアクソポリスにいつものような喧騒が戻って来ました。
 王を失った王宮の一室で、クソクレスは傍らのお茶に手を伸ばしました。
「どれほど戦いが激しかろうとも、いつもこのように街に活気が戻ります。しかし、それもいつまで続くのか不安です」
 クソクレス一行の世話係を務めるモレッタは、まだ心からの笑顔を取り戻せません。
「確たる幸せ、未来はない。見えぬとても、人は生きるしか道はない。
 糞を愛でよ。
 生きるが為に、ともに生きよ」
「私はそこまで強くなれるのでしょうか」
 クソクレスには、まだ確かなる答えがありません。
 しかし、クソクレスが立ち上がらねば、人の世に未来はないのです。
 窓の外を見ると、公園では人々が公衆便所に列をなし、子供たちが道端で糞投げを楽しんでいる姿が見受けられます。
 この幸せな光景が父ブリューワの一存で滅び去ろうなどとは、クソクレスには認め難き話です。しかしこのままでは、確かに審判の下される日が訪れるのです。
「私には、時間がないのだ。
 ……モレッタよ、ベンジャーたちはどうなったかな」
 捕虜たちは、傷は治っても、まだ通常の生活に戻れるまでの体力は回復していませんでした。モレッタやバビュウムは、彼らの看護も手伝わされていたのです。
「歩けるまでには回復なされました。一両日中には乗馬もできましょう」
「そうか、では同行も可能だな」
 もうクソクレスは、アクソポリスに留まってはいられません。
「ここは、素晴らしい都市だ。糞の教えを守り続ける限り、幸福への道は開かれよう。しかし、私に手伝える事は、糞の有り難味を知らしめる事のみである。
 今日を生きよ。
 そして、築けよ。
 私は、汝らの輝ける未来を信じている」
「もう、行かれてしまうのですね」
「うむ」
 クソクレスは、はっきりと首を縦に振りました。
「脱糞せよ、人の子よ」

-つづく-

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