炎の日（5）

「放尿」
　号令に続いて、その場にいる騎兵全員の、放水活動が始まりました。その傍らの一部の兵は、延焼を防ぐ為に近くの家屋を次々に破壊していきます。
　頭より肉体が秀でるシャワーズ族の兵たちは、アクソポリスの戦いでも用いた鉄球を振り回し、一気に周りの家屋を破壊していきました。そしてあっという間に燃え盛る家屋は騎兵たちの小便に包まれて、その炎は消え去って行きました。便壷何百杯分に相当する小水が掛けられたのか、クソクレスには想像もつきません。しかし確かに炎は消えていったのです。
　すると、ブランベンブルク門から、近衛兵に囲まれた、恰幅のない髭面の、小さな男が現れました。
「クソクレス様」
　遠巻きに現場を見ているクソクレスの背後に、目を覚ましたボットンジャーが忍び寄って来て告げました。
「あの小男こそが、ジャボールです」
　クソクレスの眼が、かっと開きました。

「糞の民どもよ、見るが良い、この大いなる小便の力を」
　ジャボールの叫びが、狭い居住区に響き渡りました。
「糞で炎が止められるか。
　否。
　止められぬ！
　この世を司る小便こそが炎を消し止めたのだ」
　確かに一理ある言葉です。しかしクソクレスにとって、この世を司る小便という言葉は認められるものではありません。第一火事の際は、小便に頼らずとも普通の水を掛ければ済む事ではありませんか。ましてやシャワーズの半島は、海に囲まれているのですから。
　しかし、ジャボールを囲む兵士たちは、口々にジャボールを称え、同意します。
「ジャボール様の仰る通りだ」
「ああ、こんな素晴らしい教えの下に存在する俺は、何と幸せな男なのだろう」
「ジーク・小便」
「小便なしでは、この炎は食い止められなかった。小便こそが人々を救ったのだ」
「こんな素晴らしい教えを受け入れず日々を営む糞の民とは、何と不幸せな人々なのだろうか。いや、不幸せなのだ」
「嗚呼、何故気が付かないのだろう。僕はこの哀れなる猿どもに、同情を禁じえない」
　何だか舞台劇の、役者の台詞の様相です。中には、小便を垂れ漏らしながらおいおいと泣き叫ぶ兵の姿も見受けられます。
　そして、ジャボールの大きな声が、ウンコー・ベン・リンベンに響きました。
「糞を捨てよ、そして小便の下に集うが良い。小乗便教団は、いつでも愚かなる民を受け入れる努力を惜しまない」
「ジーク・小便」「ジーク・小便」「小便、小便……」
　ジャボールが踵を返すと、騎兵たちは下半身を剥き出しにしたまま後を追い、そのまま門の向こうに消えていきました。そしてブランベンブルク門がゆっくりと閉ざされ、後にはただ、静寂が残るだけでした。
「……何だあれは」
　クソクレスは、呆れた視線で彼らを見送りました。
「ジャボールの言う啓蒙活動の一環です。どうせ火をつけたのも奴らでしょうが……
　それで消火活動を通して、小便の優位性を訴えるのです。まあ言うなれば、放火と詐欺の連罪ですな。我々が気が付いていないとでも思ってでもいるのでしょうか。もうこれまでに何十回も、同じ事がありましたからな。何ヶ月かに一度の、いつもの恒例行事です」
　クソクレスはそれを聞き、人間の愚かさに、へなへなと崩れ落ちてしまいました。
「息子が、息子が家の中に！」
　一人の夫人の泣き声が、ウンコー・ベン・リンベンを走りました。

第十六章：糞は舞い降りた（1）

　見るものを威圧するブランベンブルク門は、朝焼けの中、静かに佇んでいました。
　しかしその奥のウンコー・ベン・リンベンの通りには、ただならぬ不穏な空気が流れ、街を包んでいます。
「おお、ベットゥーリ、何故死んでしまったの」
　一人の母親が、大粒の涙を流しながら泣き叫びます。
「ヘルフンガ、取り乱すな。立派に見送ってやれ」
　ボットンジャーが、優しく婦人を抱えます。
　聖糞堂が冠婚葬祭の場としての機能を失った今、死人は、朽ち果てたウンコー・ベン・リンベンの裏山にある墓に、儀式もなく、直接土を被され葬られるしかありません。
　先の火災の犠牲となった一人の子供の埋葬に、クソクレスたちは住民とともに参列していました。
　未来ある子供の死はあまりにも悲しく虚しいもので、墓前に集う人々はただ言葉もなく俯くばかりです。
「死者を葬る祭司がおりませぬ。クソクレス様、クソクレス様のお言葉で、死する者をお送りくださいませ」
　ボットンジャーの願いに、クソクレスは言葉を返しました。
「小便を司る邪教の街で、糞の葬祭は許されるのか。汝らの身に危険が及ぶ事も有り得よう」
「奴らは、このブランベンブルク門の奥で、我々が何を行おうとも関心を示す事はありません。ですから、良いのです。それに、ベットゥーリの魂も神の子たるクソクレス様に見送られるならば本望でしょう」
「そうか……ならば、その申し出を受けさせて貰おう」
　クソクレスは、受諾しました。
「ベットゥーリは良い子でした。私もこれでヘルフンガを除く全ての親族を失いました」
「失った？」
「ベットゥーリは私の甥です。私の家族は迫害の日々の末、次々と滅んでいきました。生き延びたのは愚兄ゲイリーの息子ベンジャーと、私だけでした。
　ベンジャーは、先の闘いから戻って来ませんでした」
　クソクレスの心の中に、かっと炎が灯りました。

－つづく－

第十六章：糞は舞い降りた（2）

「ベンジャーはその妻ヘルフンガと我が子ベットゥーリを護る為、自ら望み、進んで糞を捨て、ジャボール率いる小便の軍への入隊を志願しました。何年も掛けて、信頼を得、ブランベンブルク門からの常時外出権利を得る矢先の事でした.
　しかし彼は、戻って来なかったのです」

　命を震わせアクソポリスの城門に突撃するベンジャーの姿がクソクレスの脳裏を揺るがしました。
　クソクレスの全身から、赤く、下痢便にも似たオウラが湧き出、朽ち果てた墓場に集う人々全ての身を照らしました。
　その時、天空のとぐろ雲が割れたかと思うと、天から出でたる一条の光が舞い降りて、ベットゥーリの亡骸を包みました。
　そしてその光の中に、天空の糞界より出でたる一人の糞使が現れて、ゆっくりと亡骸の脇に舞い降りて来たのです。
「糞使ポキエルよ、この魂を天に連れて行け」
「はい、クソクレス様の仰せのままに」
　ポキエルが息を吹きかけると、かつてベットゥーリであった焼き焦げた塊は大きな輝く糞へとその姿を変え、ぼろぼろと形を崩し、天空へと舞い昇っていきました。ポキエルがそれを追い空へと身を翻すと、ベットゥーリの亡骸のあった場所にはもはや何もなく、ただ光のみがその場を照らし続けました。
　そして数刻の時を経ると、ベットゥーリとポキエルの駆け上って行った大空から幾つかの糞の塊が落ちてきて、墓場の中、大地に次々と突き刺さりました。
　それは大きな糞の剣であり、槍であり、矛であり、糞弾でした。
　墓場に集う人々は、それらを地から引き抜くと、全身に糞のエナジーが湧き上がるのを感じました。
「我の名はクソクレス。
　我を信じよ、そして得よ。自らの手で、自由を取り戻せ。奪われた糞を取り戻すために、大いなる糞の教えを己が身に」
　ベットゥーリの魂は天に昇り、その体は、万にも至ろうかという武器となったのです。
　クソクレスの雄たけびは戦いの狼煙として、その場にいる全ての人々の魂に炎を燈らせました。

－つづく－

第十六章：糞は舞い降りた（3）

　小乗便教の本営たるジャボールの砦であるシャーロッテンブルク宮殿からも、ウンコー・ベン・リンベンに舞い降りた一条の光は確認できました。
　小便風呂から上がり、朝の飲尿を嗜んでいたジャボールは、その黄金色の光に一抹の不安を覚えました。
　王室に多数の指揮官が集います。
「ジャボール様、我らが小便の輝きを示す黄金の光が邪教区へ降り注いでおります」
　しかしジャボールは知っていました。小乗便教以外にも、黄金色を最上の色となす教えがある事を。
「我の御心によってその存在を許してきたものを恩を仇で返そうとは。やはり、糞を放置してきたのは誤りであったと見える」
　ジャボールのその言葉に、王室の中にざわめきが広がります。
「では、まさか、あの光は」
　ジャボールは、ゆっくりと言葉を続けました。
「大の輝き。邪神である。
　全ての兵を投入して、ブランベンブルク門を包囲せよ。そしてその中の、全ての民を打ち殺せ」
　聖戦の鐘が、打ち鳴らされました。

－つづく－

第十六章：糞は舞い降りた（4）

　ジャボールの号令を耳にして、軍属も民間人もなく、小の民は突入を始めました。
　アクソポリスの戦いで多くの人馬を失ったシャワーズ族ですが、そこは蛮族の蛮族たる所以です。半島に残った人々は軍属でなくとも荒々しい体躯を持ち、攻撃的な性格を備え持っていました。ないのは知性ぐらいでしょうか。彼らは次々に小便の池に身を投じ気合の行を行うと、興奮しきった面持ちで武器を手に取り、ブランベンブルク門へと繋がる細道に飛び込んでいきました。
　しかし数千、数万を越す人々が一度に人一、二人分の幅しか持たない通路に飛び込もうとて、無事に通過できる道理はありません。
　多くのシャワーズ族の人々は人波の中で圧死して、しかしそれに構わず次に次にと多くの人馬が詰め寄せます。
　通常は上部の命令を待って一人一人が行動を起こすものですが、そんな理屈はシャワーズ族には通じません。しかしそれはブランベンブルク門の奥の、クソクレス率いる糞の戦士たちも同様でした。
　結局彼らウンコー・ベン・リンベンの人々もシャワーズ族であることに変わりはないのでこちらも門に傾れ込みぎゅうぎゅう詰めになっているのです。
　万に至ろうかと言う両の大群が一気にブランベンブルク門を駆け抜けようというのですから、お互い突破は無理な話です。
「その有り余る力を、今一時控えよ」
　クソクレスが言葉を掛けても、興奮した群衆は聞き入れません。
　所詮はどちらもシャワーズ族なのだとしか言葉に出来ない所です。

－つづく－

第十六章：糞は舞い降りた（5）

クソクレス率いる群集も我先にと門に押し寄せ突進を続けていきます。しかし数で小乗便教に劣る糞の民がこんな所で力を浪費していては、勝てる戦いにも勝てません。味方にも、とうとう圧死した犠牲者も出たようです。
「クソクレス様、門を破壊させるんだ。みんなにはブランベンブルク門の破壊に集中させればいい！」
「成る程」
　バビュウムの助言は覿面で、クソクレスが門の破壊を命ずると、人々は皆して壁の破壊活動に取り掛かりました。これで暫くの間、無駄な命の消費は食い止められます。
　高く聳える東西を分けし壁は徐々にその姿を崩して行きました。
　その間に、クソクレスは気を込め、糞を込め、アクソポリスで行ったように、天空に集う雲々に祈りを捧げました。
「クソクレス様は何をしようというのか」
　フンダがバビュウムに問い掛けました。
「ク・ソードだ。ク・ソードを呼び寄せているんだ」
　バビュウムが興奮した面持ちで叫びます。もうフンダよりもバビュウムの方がクソクレスの行動パターンを掴めています。
　クソクレスが気合を込めると同時に、大きくブランベンブルク門の上空に集った雲の束を見て、遠く戦況を見守るジャボールも危機感を強めました。
「門への細道から離れよ、危ない匂いがする」
　しかし、そんな言葉を聞き入れられるほど冷静なシャワーズ族はほとんど皆無です。人々は細道への突入を止めようとはせず、逃げるどころか次々に圧死していったのでした。このまま放っておいても、勝手に自滅していきそうな勢いです。
「これはまずいぞ」
　使い物にならない人民の姿に舌打ちしたジャボールが空を見上げると、そこには大きな、大地を切り裂かんばかりのク・ソードが、細道の入口を目掛けて降下を始めていました。
「伏せよ、糞の剣である！」
　ジャボールの叫びを受けて、数少ない知性あるごく一部のシャワーズ族は身を伏せ衝撃に備えましたが、残りの多くのシャワーズ族の連中は空より出でたるク・ソードに怯え、慄（おのの）き、震え、狂乱にその身を沈めるのみでした。

－つづく－

第十六章：糞は舞い降りた（6）

「な、何だあれは」
「うおおおお、どけ」
「うわああああああ」
「そうだ、小便が我々を護って下さる。我々には小便のご加護がある。皆のもの、放尿せよ」
「そ、そうだ、放尿だ」
　逃げた方が話は早いと思われますが、細道に集う群衆は、次々にそう口走り、袴を脱ぎ捨てました。そして何万、いや、何十万にも届こうかという群衆の、集団放尿が始まったのです。
「ジャボール様！」
「ジーク・小便」
「だ、駄目だぁ」
「うわー」
　群衆の願いも虚しく、その中央を目掛けたク・ソードは、瞬時にして愚かなるあまた数多の魂を奪っていきました。

　とてつもなく大きな糞の塊が地に突き刺さった衝撃により、小便の池の水面が跳ね上がり、その全ての水滴が宙を震わせました。
　人々は、下半身を丸出しにしたまま糞尿の渦に巻き込まれ、その糞圧でこなごなに砕け散っていきました。
　ク・ソードの衝撃はブランベンブルク門にも伝わり、東西を分け隔てていたその壁は、大きく揺れたかと思うとゆっくりと瓦解を始め、やがて、支柱の一部を残し、ブランベンブルク門から、かつてブランベンブルク門であったものにその姿を変えていきました。
　門へと続く細道は大きく口を開け、そこにク・ソードの破片がびしょびしょに飛び散ると、細道の奥まで何とか突入していたシャワーズ族の人々も、その中に次々と飲み込まれていきました。
　そしてまたその衝撃で、ブランベンブルク門の地下にたまっていた瓦斯（訳者注：メタンガスであると思われる）が爆発し、クソクレスを慕う幾人かの糞の民も巻き込まれていったのですが、逆にそれは迫害を受け続けていた人々の心を誘発して、その進撃を食い留めるものとは決してなりませんでした。
　生き延びた、甲冑を全身に纏った軍馬が興奮しながら街中を駆け回り、それに激突したシャワーズの民は、次々と絶命していきました。

－つづく－

第十六章：糞は舞い降りた（7）

　ジャボールは生き延びたシャワーズの兵を呼び集め、反撃の狼煙を上げました。
　シャーロッテンブルク宮殿から次々と兵が湧き出して、糞の民を目掛けて進撃を開始します。
　頭脳に若干の問題のあったシャワーズ族の大半は、相当の損害を受けましたが、生き延びた者は、それなりの知性を有しているのでしょう。明らかに組織的になった軍勢は、四方から糞の民を包囲していきました。
　細道のあった場所は、ク・ソードで滅茶苦茶になって一面に広がる糞の大地に姿を変え、次々にその上をシャワーズ族の軍勢が駆け抜かんとしていきました。
　クソクレスは、ク・ソードを呼び寄せた時と同じだけの糞のエナジーを奮い立たせ、もう一度気を込めました。
　すると一面に広がる糞から次々と鋭利な糞の槍が突き出てきて、そこを駆け抜けようとする軍勢を次々と貫いていきます。
　哀れなる小便の民は、剣山の如く地より出でたるその槍に体中を貫かれ、ばたばたと倒れていきました。
「行くぞ、続け、糞の民よ」
　バビュウムの号令が、白兵の狼煙と鳴りました。
　バビュウムの右手には大きな剣が、その左手には盾が握り締められ、そしてバビュウムと同じように、かつてベットゥーリの体であった武器を覆い纏った糞の民たちが、傾れんばかりにして突き進みます。ちなみにフンダは、糞使ポキエル降臨の際に出遅れて、中指ほどの長さしかない糞の小刀を一本しか手にする事ができなかったので酷く不安です。
　そんな中一人クソクレスは、力を使い過ぎたからでしょうか、胸を押さえ、その場に倒れ込んでしまいました。
「力が入らぬ。くっ、神の子ともあろう者がこれしきの事で情けない」
　地に突っ伏したその体に、大きな絶望感が漂います。
　しかしまだ壮絶な聖戦は、始まったばかりなのです。

第十七章：己が意志（1）

　クソクレスの朦朧とした意識の中に、一人の微笑が浮かびました。
　その微笑みはやがてゆっくりと女性の形となり、クソクレスのすぐ側で、弛む事なく笑顔を作り続けます。
「母上であるか」
　クソクレスには、分かりました。
「母クソーラよ。私には、このような方法しかなかったのであろうか。多くの民を戦いの渦に巻き込み、その魂を犠牲にする戦いを仕掛けるしか、方法はなかったというのだろうか」
　クソクレスの胸の奥にある一欠けらの悔いが、その問い掛けを生み出しました。
「クソクレスよ。己が意志に従い、賭けると決めたはずではございませんか」
　クソーラの言葉が、クソクレスの心を突き刺します。
「私の言う人の世の救いとは、血塗られる事でしか、成し得ないものだったのでしょうか。人々を傷つける事でしか善良なる民を救う事もできぬのか、私には、分からないのです」
　クソーラは、何も答えません。
　しかし、クソクレスにも分かっているのです。
　神とて完全なる意志を持つ万有の存在ではないと言う事を。
　ましてやクソクレス自身、神という概念からしてみれば、まだ、旅立ちを始めたばかりの赤ん坊のような存在に過ぎない事を。
「クソクレスよ。命あるもの、生を全うすると言う事は、簡単な事ではないのです。例えそれが神の子であろうとも」
「人の子と、変わらぬか」
　それは、絶望ではありません。
「ならば私も、我の意志に従おう。
　人が、己が想いを信じ、例え間違った方向へであっても突き進むように。
　我は、我の意志に従わん」
　クソクレスは、心を震わせてその身を起き上がらせました。
「ぐっ」
　体は重く、足を震わせつつも、しかし、しっかりと、その地を踏み締めながら。
　もうクソーラの声は聞こえません。

－つづく－

第十七章：己が意志（2）

　数に優る小便の民が、ずるずると後退して行きます。
　鬱屈を爆発させた糞を信じる者たちの破壊力は圧倒的かつ強圧的でした。
　糞で作られた剣が鉄の盾を砕くと、小便の民は必死になって槍で返すのですが、糞の甲冑はそれをまた砕き返し、投げつけられた糞弾が、小便の民の脳を砕きます。
「ジャボール様、敵の武装は強力です。鉄の剣とて跳ね返されます！」
「何故だ。何故鉄が糞に負けるのだ」
　ジャボールは喚き、シャーロッテンブルク宮殿へ後退し。それを追う糞の民衆が取り囲み、先兵たる勇者たちは命を懸けてジャボールの元へと押し寄せて行きました。
「糞は、命だからだ」
　突入してきた糞の民の先頭で叫ぶのは、バビュウムです。
「何？」
　思わずジャボールは振り返りました。その額には脂汗が滲んでいます。
「糞は生きている！だから、俺たちの心によって硬くも脆くもなる。ただ流れ去る小便しか知らぬお前に、それが分かるはずがない！」
「小癪な小僧めが。反撃せよ」
　号令と同時にジャボールとその周りを囲む軍勢は一気に袴を下ろし、小便の渦（弾幕）を撒き散らしました。
　虚を突かれたバビュウムたちの動きが鈍ります。
「ジャボール様、宮殿へ。ここでは不利です！」
　ジャボールたちは体を翻し、宮殿へと退がって行きました。小便に目をやられた糞の民も一時後退するしかありません。
「やるな、ジャボール」
　呻くバビュウムですが、形勢が糞の民に傾いているのは確実です。先勝気分が場を覆い包み始めました。

－つづく－