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糞神の子クソクレスが人の世に降り立った。栄光の神話を君に。

降臨


序章:糞と、人の標
第一章:クソクレスの旅立ち
第ニ章:金の糞と銀の糞(1)
第ニ章:金の糞と銀の糞(2)
第ニ章:金の糞と銀の糞(3)
第三章:北の厠(1)
第三章:北の厠(2)
第三章:北の厠(3)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(1)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(2)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(3)
第四章:聖馬アヌスミラブリス(4)
第五章:ヘガデル村の少年(1)
第五章:ヘガデル村の少年(2)
第五章:ヘガデル村の少年(3)
第六章:糞と屁の攻防(1)
第六章:糞と屁の攻防(2)
第六章:糞と屁の攻防(3)
第六章:糞と屁の攻防(4)
第七章:伸びる糞(1)
第七章:伸びる糞(2)
第七章:伸びる糞(3)
第七章:伸びる糞(4)
第七章:伸びる糞(5)
第八章:糞の誓い(1)
第八章:糞の誓い(2)
第八章:糞の誓い(3)
第九章:糞を食らうもの(1)
第九章:糞を食らうもの(2)
第九章:糞を食らうもの(3)
第九章:糞を食らうもの(4)
第十章:アクソポリス(1)
第十章:アクソポリス(2)
第十章:アクソポリス(3)
第十一章:大の教えと小の教え(1)
第十一章:大の教えと小の教え(2)
第十一章:大の教えと小の教え(3)
第十一章:大の教えと小の教え(4)
第十一章:大の教えと小の教え(5)
第十二章:小便の大隊(1)
第十二章:小便の大隊(2)
第十二章:小便の大隊(3)
第十二章:小便の大隊(4)
第十三章:二つの奇跡(1)
第十三章:二つの奇跡(2)
第十三章:二つの奇跡(3)
第十三章:二つの奇跡(4)
第十三章:二つの奇跡(5)
第十三章:二つの奇跡(6)
第十四章:厠は二つ(1)
第十四章:厠は二つ(2)
第十四章:厠は二つ(3)
第十四章:厠は二つ(4)
第十四章:厠は二つ(5)
第十四章:厠は二つ(6)
第十四章:厠は二つ(7)
第十五章:炎の日(1)
第十五章:炎の日(2)
第十五章:炎の日(3)
第十五章:炎の日(4)
第十五章:炎の日(5)
第十六章:糞は舞い降りた(1)
第十六章:糞は舞い降りた(2)
第十六章:糞は舞い降りた(3)
第十六章:糞は舞い降りた(4)
第十六章:糞は舞い降りた(5)
第十六章:糞は舞い降りた(6)
第十六章:糞は舞い降りた(7)
第十七章:己が意志(1)
第十七章:己が意志(2)
第十七章:己が意志(3)
第十七章:己が意志(4)
第十七章:己が意志(5)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(1)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(2)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(3)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(4)
第十八章:邪(よこしま)なるもの(5)
第十九章:約束の地(1)
第十九章:約束の地(2)
第十九章:約束の地(3)
終章:糞は友達(1)
終章:糞は友達(2)
終章:糞は友達(3)
終章:糞は友達(4)

解説


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 その時です。クソクレスは、遠くから母クソーラの呼び掛けが聞こえてきた気がしました。
「私も幻聴を感じたのか」
 クソクレスはぞっとしました。自分までもが体調を崩したとあっては一大事です。しかしそのクソクレスの耳に、再び呼び掛けの声が届きました。
「クソクレスよ」
 はっきりと声を感じます。これは幻聴ではありません。
「助けてくれ、ここから出してくれ」
 同時にクソクレスは父ブリューワの声も聞いたような気がしたのですが、これはどうもよく聞こえなかったので、こちらは気のせいだろうと無視する事に決めました。
「私はあなたの手助けはいたしません。なぜなら、あなたの旅は、あなた自身の手で成し遂げねばならぬ使命だからです。しかし、旅に疲れたあなたに声をかけ、励ましてあげる事ならば私にもできましょうぞ」
 クソクレスの心に、クソーラの声がはっきりと届きました。
「しかし、方法がないのです」
「方法はあります……あなたは糞神の子。糞があなたを救います。考えなさい、そして、行いなさい。あなたは糞の加護の下にある存在なのだから」
 それだけ聞こえると、クソクレスにはもう、クソーラの声は聞こえなくなりました。
「糞が私を救う……」
 クソクレスは、考えました。そして、一つの方法に辿り着いたのです。
「そうか、分かったぞ」
 クソクレスはバビュウムとフンダを並べた脇に茶碗を一つ起きました。
 そして腰巻を脱ぐと、力を込めて、一切れの糞を脱糞しました。
「糞は、毒にも薬にもなる……私の調合一つで、二人の運命が決まる」
 クソクレスは慎重に糞をすり潰して、別の椀で調合した薬草と、手持ちの糞薬を混ぜ込みました。そしてそれを丁寧に塗り固めると、ひと舐めして出来合いを確認しました。糞で作った薬は、患部に塗りこむだけが能ではありません。
 これならいけるはずだとの思いを込めて、クソクレスは二人の口に糞薬をなみなみと注ぎ込みました。
 後は、明日の朝、二人の体が冷たくなっていなければよいのです。
「万全は尽くした。母クソーラよ、慈悲を……」
 夜空に、クソーラの微笑が見えた気がしました。ですからクソクレスは、心を落ち着かせて眠る事ができました。オアシスについて以来、クソクレスは一睡もしていなかったのです。
 クソーラの微笑みの横に、父ブリューワの歪む顔と「助けてくれ」という声も感じた気がしたのですが、疲れが究極に達していたのでしょう。もうクソクレスの瞼は開く事はありませんでした。

 穏やかな朝の光が、オアシスを包みました。
「さあ行こう、アクソポリスへ」
 高らかに響くクソクレスの号令が水面を打ちました。
 アヌスミラブリス号がひひーんと一声嘶き、バビュウムもそれに続きます。
「ご心配かけまして申し訳ありませんでした」
 クソクレスは、バビュウムに、ただ一つ笑みを返しました。
 まだ体調が完全でないのでしょう。フンダは馬上でやつれた表情をしていますが、どうせ元気でも砂漠の道程ではふにゃふにゃになっている男ですから同じ事です。それにフンダが無口な方が旅も楽になります。
 クソクレスは、危機を乗り越えた満足感と母への感謝の思いから、大きな希望が湧きあがってくるのを感じました。そういえば、目覚めの糞も大型でした。
「また新しい旅を彼らと続けられる。これは素晴らしい事だ」
 今のクソクレスには旅の行く手を阻む天から注がれる強い太陽の光も、希望の象徴のように感じられるのです。

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 砂漠の果ては、草原でした。
 草原を越えるとそこには川があり、山があり、獣の姿があります。
 そして動物たちの様々な脱糞が、沢に林にと広がっています。
「これが、生きとし生けるものの姿だ」
 クソクレスは大きく息を吸い込み、その空気をたっぷりと胸に溜めて吐き出します。
 バビュウムも空気を屁に変えて、爆音を響かせました。
 フンダは先ほど、大きな熊ん蜂に刺されて顔面の左半分を膨れ上がらせているので痛そうです。
「しかし、その痛みをもが生きている証なのだろうよ。創造の主糞神ブリューワといえども、その一存でこの素晴らしき大地を消し去ろうなど許される事ではない……私には……認め難き事である」
クソクレスの呟きが、バビュウムの胸に刻み込まれました。
 フンダには声が届かなかったのでしょう。こんな森は焼畑にでもするべきだ、虫がうるさいなどと馬上でぶつぶつ続けています。

 林を抜けると、そこは崖でした。
 そして崖の下には、大きな都市があったのです。
「凄い、家が一杯ある。千や二千じゃきかないよ、一万はある。いや……もっとだ!」
 バビュウムが興奮して叫びました。
「これが、アクソポリス……!」
 クソクレスもこんな大きな集落は見た事がありません。
 崖下から拡がる高い糞の城壁は延々と続き、町の四方を取り囲んでいます。
 家や建物は、一見石垣や煉瓦造りに見えるのですが、それらの全てが糞を塗り固めて作った塊であろう事も色から推測できます。
 都市の中央には大きな公園があり、中心の建物は恐らく公衆便所なのでしょう、人々が行列を作って並んでいるのが分かります。そして公園の脇には小さな王宮があり、天守閣には巻き糞を連想するモニュメントが被せられています。
 普通、町の中央にどんと聳え立っているであろう王宮が公衆便所にその位置を譲っているという事実が、この都市の住人の信心深さを物語っています。
 都市全体は黄土色の装飾で塗り固められ、陽の光に美しく映えています。これこそ糞の理想郷と呼べましょう。
「糞の神殿ですらこれほどではない」
「そうですね。この都市を見た後では、糞神ブリューワ様が丹念にお心を込めてお造りになった糞の神殿ですらも、暗くて、ちんけで、辺鄙で、貧相で、情けなく思えます」
 一言も二言も多いのがフンダの特徴です。
「クソクレス様、はやく崖を下りましょう。アクソポリスに入りましょう」
 バビュウムの問いかけに、クソクレスも我に返りました。クソクレスすらも、その圧倒的な街並みに気圧されていたのです。
「よし、急ぎましょう。アヌスミラブリス、いざ」
 フンダが鞭を振るうと、崖の上だというのにアヌスミラブリス号はぱっと駆け足をはじめました。フンダには、馬を操る才能はないようです。
「危ない」
 クソクレスがそう叫ぶや否や、体勢を崩したアヌスミラブリスは、その場にいる全員を巻き込み、崖から落ちて行きました。

-つづく-

“天より来たる糞の使い、崖から参らん。
 神の子と、二人の僕(しもべ)と、一頭の馬が、アクソポリスに伝わる糞の教えをさらに強めよう。
 心強き神の子の導きにより、真の平和は保たれん”

「アクソポリスに伝わる、古くからの口伝でございます」
 アクソポリスの王宮に招かれたクソクレスに語りかけるのは、アクソポリスの王、フンデルです。
 さて、崖から落ちた一行は、幸いに街外れの肥溜めに落下したおかげで全員命を取り留めました。
 クソクレスは無傷、バビュウムは足の小指を骨折、フンダは頭を強く打ちましたが、良い意味でも悪い意味でも別に普段と変わった様子はないようです。ここでもアヌスミラブリス号はその名馬ぶりを発揮して、アクソポリスの市民が現場に駆けつけた時には、肥溜めの脇で悠然と、脱糞を続けていたそうです。やはり名馬は一味違うという証左といえましょう。
 遅れて駆けつけたフンデル王は、肥溜めから突き出たクソクレスの左足から沸き起こる神のオウラを感じたそうです。そして事実、その左足は神の子クソクレスの足そのものでした。脇に転がるフンダからは特に何のオウラも感じなかったので、単にクソクレスの付き人か金魚の糞(訳者注:糞の教えによれば、これは別に悪口ではない)だと思ったらしいのですが、それも事実その通りと言えましょう。フンデル王の眼力は確かなものでした。
 バビュウムとフンダの二人はすぐさま病院に送られ、クソクレスは王宮に一人招かれました。もっともフンデル王がクソクレスを夕食会に招いた際、美味しいものが食べられると知ったフンダとバビュウムは、ちゃっかりと病室を抜け出して、クソクレスが食堂に到着する前にテーブルについていましたが。
「モレッタよ、客人に料理を」
「はい、王様」
 小間使いの少女モレッタが厨房より戻ると、クソクレスたちの前に大きな皿が用意されました。皿には美味しそうな糞色のかぼちゃのスープがなみなみと注がれ、脇にはこんがりと糞色に焼けた焼肉が並べられました。
 しかしフンデル王は、料理をクソクレスの分しか用意していなかったので、ここでフンダとバビュウムの肉の取り合いが始まってしまいました。
 そのはしたなさをクソクレスが諌めようとすると、それを見ていたモレッタのくすくす笑いが場を包みました。
「ふふふ、お客様方。お料理はたくさんご用意されておりますよ。焦らずにお待ち下さいね」
 フンデル王も楽しそうにそれを見ています。糞の加護ある人々は、なんと幸せそうな笑顔をつくれるのだろうと思うと、クソクレスは心が温かくなるのを感じました。
 クソクレスの顔色を見て、バビュウムも己の恥ずかしい行いに気がついたのか、しまったというような仕草で上を見上げると、そこにはモレッタの目がありました。
 モレッタは、にっこりと笑顔を返しました。バビュウムはひどく照れくさそうに、感謝の放屁を演じました。
「メイドさん、次の料理、早く出してね」
 フンダはどうも無粋です。

-つづく-

 夕食会の後はフンデル王自らの町案内です。
「我らが城塞都市アクソポリスへようこそ、是非とも住民の暮らしをお目にして下さい。私自らが随行いたしましょう」
 気さくなフンデル王は自ら率先して街へ繰り出していきました。
 街は、活気溢れる喧騒の渦に巻き込まれていました。
 可愛らしい屋台の売り子が黄色いソフトクリームを手に、街行く人々に声を掛けています。
 肛門に絵筆を突き刺した似顔絵師が器用に家の壁に主の顔を描いています。
 裏通りの職人が糞でできた壷に丁寧にモザイク模様を形作ると、その横で女将が綺麗な装飾を施しています。
 結婚式を終えたばかりでしょうか、糞色のブーケを手に、女の子がはしゃぎまわっています。
 金髪美人脱糞ショウの看板が、男たちの視線を誘います。

「素晴らしい……このような素晴らしい都市を、人々を、父は滅ぼさんというのか」
 クソクレスは、心の底から感嘆しました、
 フンダなどは、旅など終えてこの街に一生居付きたいというような表情で、実際そう思っている様子です。
 しかしクソクレスには、いくつか気になる点もありました。
 都市を高々と囲む、厚すぎる城壁の上には、物々しい雰囲気の兵士たちが集い、そして街角には明らかに負傷したと見られる男たちがたむろしています。
「外敵が存在するのか」
 クソクレスの問いに、フンデル王は体をびくりと震わせました。
「はい、実は……」
 それを聞いたフンダの顔色が変わります。
「そうか、災難であるな。
 それではクソクレス様、ここは糞の教えを忠実に守っている良い都市です。早目に旅路に戻り、我々を待っているであろう次の集落に向かいましょう。フンデル王も外敵に気をつけて統治を成すが良い。それでは」
 フンダは自分の心に正直に、争いに巻き込まれる前に一刻も早く脱出すべく、クソクレスに進言しました。
 その瞬間、街中に鐘の音がらんらんと鳴り響きました。
 人々が慌てて家屋の中に走り込み、どこから現れたのか、鎧に身を固めた兵士たちが広場や通りを埋め尽くしました。大きな弓や槍を担いだ大仰な兵の姿も見えます。町中の男という男たちが駆り出されているのでしょうか、万を下らぬ数の兵士たちが東の城門に向かって走ります。
「敵襲ー」
「軍馬を出せ、牛でも構わぬ」
「シャワーズ族の連中だ」
「糞弾(kusodama 訳者注:糞で塗り固められた砲丸。岩より硬い)用意」
「女、子供も白兵に備えよ」
 フンダの進言は、どうやら遅かった模様です。
「フンデル王よ、アクソポリスは素晴らしい都市ではあるが、大変な問題も抱えている様子だな」
 クソクレスの言葉にフンデル王も頷くしかありません。
「はい。我々は、異教徒の襲撃に怯えながら暮らし続けているのです」
「異教徒」
 その言葉に、クソクレスも眉をひそめるしかありません。

 大きな崖下に聳える城塞都市アクソポリスの正面には大きな平野が広がり、その果てには遠く海が見えます。
 海岸線の奥、更に先の半島には、古代よりシャワーズ族と呼ばれる住人が砦を構え、独自の文明を築いていました。半島は岩で囲まれ、荒れ狂う海の中での漁業を生業として栄えた屈強なシャワーズ族は、周辺の民族に蛮族として恐れられてきました。
 しかし、シャワーズ族とて糞の教えに従い生きてきた民族であったはずです。クソクレスもそれは知っていましたし、糞の教えを守り存在する以上、神々は特に、シャワーズ族の動向を気に留める事はありませんでした。
「異教徒と聞けば放っては置けぬ。フンデル王よ、シャワーズ族に何が起こったのか」
「シャワーズ族は、糞の教えを捨てたのです。糞を蔑ろにする……いえ、糞そのものの存在を敵視して生きる道を選びました」
 衝撃の事実に、クソクレスは絶句しました。
 そんな事が有り得るのでしょうか。
 糞とともに歩まずして、下界の民が生きゆく道などクソクレスには想像もつきません。ましてや短気なる糞神ブリューワにそれが知れたら、人の世などあっという間に滅ぼされてしまうでしょう。
「しかし、事実なのです」
 フンデル王の言葉に、クソクレスの唇がわなわなと震えました。
 丁度その頃、万を越える軍馬の大隊が海岸線を突破して、アクソポリス前方に広がる平野は、その人馬で埋まり尽くされていきました。シャワーズ族の兵士たちの甲冑は、黄色がかった青の模様で統一され、その先頭では、大きな壷を抱えた大隊長らしき人物が、気合の行(ぎょう)を行っていました。
 気合の行とは、壷に満ち溢れた脱糞を隊長自ら全身に被り、これからすぐに始まるであろう戦いに備えて行う儀式です。しかしシャワーズ族の軍隊が持っている壷の中には、糞ではなく、別の物質(もの)が入っていました。
 一旦全ての軍馬が足を止め、大隊長の周囲を囲みます。
 シャワーズ族の大隊長であるベンジャーは自らの軍馬から降り、壷を渡した配下の騎士シッコネンの前に立ちました。
「気合の行を行う。シッコネン、聖水を」
「はっ」
 ベンジャーの全身に、聖水が振り掛けられました。
 壷の中身は人糞ではなく、小水でした。

-つづく-

 アクソポリスの王宮は、アクソポリス軍の総本部をも兼ねています。その大広間に軍司令部は設営されました。
 フンデル王の下に伝令が走り寄り、斥候からの通信が伝えられます。
「シャワーズの蛮族は今、平野にて気合の行を執り行っている模様です。しかし半刻も待たずして、我が城壁に到達するでしょう」
 クソクレスには、まだよく事態が飲み込めません。
「気合の行と言えば糞界に古来より続く戦闘の儀式。何故、彼らが異教徒と言えるのか」
「いえ、シャワーズ族は糞を捨てたのです」
「では、何を信仰しているというのだ。糞を捨て、小便を拝み祭り上げているとでも言うのか」
「実は」
 フンデル王が、言いにくそうに重い口を開きます。
「左様でございます」
 クソクレスの脳天に、雷鳴が轟きました。

「いつからシャワーズの蛮族が糞の教えを捨てたのかは定かではありません。
 ただ、この二十五年から三十年前の事でありましたでしょうか、海岸線の波打ち際に、糞で作られたたくさんの陶器や装飾品が捨てられていた事がありました。そこから推測するに、その頃シャワーズ族の中で、生活から糞を切り捨てる出来事があったのでしょう。
 そしてニ十年も前の事、シャワーズ族の糞の教えを取り仕切る司祭や関係者たち数人が、アクソポリスに亡命を求めて来たのです」
 フンデル王の説明が終わると、長老の一人、ゲイリーがクソクレスの前に跪き、言葉を続けました。
「ここから先は私がご説明いたします。迫害を逃れアクソポリスに逃げ込んだその司祭こそが私ゲイリーなのです」

-つづく-

 迫害という言葉に、クソクレスは額の皺を寄せました。
「私ゲイリーはシャワーズ族の糞教徒ウンコロスの三男として生まれました。
 長男は五歳の時に流行り病にかかって死に、次男は家の裏にあった畑を借りてもろこしを栽培する仕事に就きました。四男は海の男の道を選び、三年掛けて自ら作った船で主に近場を漁っていました。私は四男の持ってくる鯖や穴子が好物で、よく焼き魚にして食べたものです。あれは美味でした。クソクレス様は季節物の穴子の美味しさをご存知でしょうか、蒲焼きと言って東方伝来の醤油だれを掛けて食べると信じられないほどに美味しく食べられるのです。クソクレス様も、今度我が家にお伺い下さい。シャワーズ族から逃げ出してきた時に持ってきた鍋で、一緒にアンコウでも突付きませんか。そうそう、シャワーズ族の話でございましたな。私が三十五か三十六の頃、シャワーズの半島に一人の男がやってきました。男の名はジャボールと言いまして、遠い大陸からやって来た異邦人です。たまに半島には遠くからの異民族がやってきて、シャワーズ族の中に居着く事があるのです。居着くといってもシャワーズ族は屈強で酒飲みの多い土地柄ですから異邦人が溶け込むには大変な労力がいるものなのですが、それでもたまに、我々より酒に強い猛者が到来する事もありましてな、大樽の濁酒(どぶろく)を一気に飲み干してしまったつわものもおりました。かく言うわしも麦酒が大好きで、よく飲み比べをしたものです。わしは大瓶なら十八杯、小瓶なら四十五杯を一晩で飲み干した事もあります。まあ、若気の至りというものですがな、はっはっは」
「私も麦酒ならかなりいける口です。司祭長ゲイリーよ、今度お宅にお伺いして私と飲み比べとは如何かな」
「はっはっは、フンダ殿、わしは強いですぞ。酒に関しては齢六十を越えた今でも現役ですからな。もっともあちらの方はここ数年ほどご無沙汰で、すっかり引退状態ですが。ぐっひゃっひゃ」
 仕方がないのでフンデル王はゲイリーに退席を命じました。
 クソクレスもフンダにゲイリーの付き添いを命じ、一緒に退席させました。

-つづく-

「シャワーズ族というものは、あまり頭が良くないのかな」
 クソクレスの突っ込みは冷静です。しかしゲイリー一人を見てシャワーズ族全部を判断するというのも良くありません。クソクレスはフンデル王の、次の言葉を待ちました。
「いや、そうかも知れません。と言うよりは、そうでしょう。そうでもなければ糞の教えを捨てるなどと、考えられる事ではありませぬ。蛮族の、蛮族たる所以です」
 自らの故郷、ヘガデル村の聖屁教団が糞を蔑ろにしてきた歴史もあるので、クソクレスの傍らに立つバビュウムの心境は複雑ですが、戦時の今は余計な口出しができる雰囲気ではありません。それを思うとフンダやゲイリーは大した存在です。
 そこに割って入ってきたのは、また別の長老です。
「異邦人ジャボールは、シャワーズの民に新たなる思想を吹き込みました。糞を愛でて何になる。大便は海に流されて沈み果てる。しかし小便は、母なる海そのものに溶け行くではないか、と」
 その長老は、フンデル王の側近を勤める聖人ブリウスと名乗りました。そしてまたこのブリウスも、かつてゲイリーとともに逃げ出してきたシャワーズ族の一員でした。このブリウスは、この伝記の中においてただ一介の脇役に過ぎないのですが、どうもシャワーズ族というだけでゲイリーと同一視されるのを嫌い、口を挟んできた様子です。バビュウムには、何だかその気持ちが良く分かりました。
 ブリウスの言葉によれば、ジャボールの教えは、糞はただの糞に過ぎず、何の意味も持たない人粕の塊に過ぎない。しかし水分たる小便は、海であり、体を流れる血潮であり、この世の中を形成する全ての元素であると言うのです。
「だからこそ糞は敵であり、汚らしいものであると、ジャボールは断罪しました。海の民であるシャワーズ族には、土よりも水を崇拝する小便の教え、即ち小乗便教(しょうじょうべんきょう)の方が受け入れやすかったのかもしれません……」
(訳者注:当然、糞の教えは「大乗便教」に分類される)
 クソクレスの心に、絶望や怒りを通り越した虚しさが押し寄せます。
 人の愚かさに、そして、あまりにも下らない教えの存在に対する、やるせない思いが。
 何をもって小便を崇め奉らねばならないのでしょうか。何故、そんな愚教を広める人間がいて、受け入れる民が存在するのでしょうか。
 追い出されたにも関わらず、大広間にのこのこと戻ってきたフンダがクソクレスに言葉を掛けました。
「こうなったら、シャワーズ族に巣食う小便の邪教を滅ぼすしかないでしょう。そして、美味しい麦酒を飲みましょう」
 クソクレスは、フンダの最初の言葉に同意しました。後の言葉は、無視しました。

-つづく-

「伝令、蛮族どもが、襲来しました!狂ったように城門に鉄球を乱打しています」
「来たか」
 野蛮なるシャワーズ族による、戦闘の火蓋は切られました。その戦法は、戦法と呼ぶにはあまりにも単純なもので、しかし強大なる破壊力をもって、アクソポリスに襲い掛かります。
「突撃!」
 ベンジャーの咆哮と同時に、シャワーズ族の、体中に鎧を纏った軍馬が駆け抜けていきました。
 城壁の上から浴びせられる弓矢の雨をかいくぐり、大きな鉄球を振り回す騎兵の小隊が城壁に取り付くと、彼らは力技で鉄球を撃ちこみ続けます。
「実に正攻法と言うか、馬鹿正直な戦法ですな」
 フンダがそういう間にも、次々と伝令が駆け込んできます。
「物凄い数の騎兵です」
 クソクレスは、黙って見ているしかありません。
「はじめは、五頭ほどの小隊でした」
 フンデル王が、クソクレスに説明をはじめます。
「次は十頭ほどの小隊の特攻でした。この頃までは、数人の弓兵が城壁の上から敵を射抜けば事は済みました。その次は二十頭ほどの一中隊が来襲しました。それで我々は、弓兵を何人か増員して全滅させました。その次は五十頭ほどでした。それで我々は、弓兵を更にまた数名増やしました。その次は八十頭ほどでした。我々は、弓兵の他に槍兵を配置して切り抜けました。その次は、彼らも考えたのでしょう。一気に三百頭ほどの騎兵が押し寄せて来ました。しかし我々も、百人ほどの兵士を増員して対応しました。
 その度、シャワーズ族の部隊は全滅していたのですが、彼らも知恵をつけたのでしょう、次に五百頭ほどの大部隊で来襲した時には、三百人ほど倒された時点で撤退を行いました。闇雲に玉砕して、数を失う事の無意味さにようやく気がついたのでしょう」
 シャワーズ族は、失敗を糧にする能力が足りない民族のようです。
「正攻法のみであるか。兵糧攻めなどの絡み手は、なかったのか」
「はい、一度も。考えつかなかったのでしょうな」
 フンデル王は、即答しました。
 しかし、来襲が続く度に、シャワーズの軍隊は何年かかけて総勢を増やし続け、遂にはアクソポリスの男全てを総動員しても対応しきれぬほどになっていきました。
 シャワーズ族は、戦いに敗れる度子供を生み続ける事により総数を増やしていったらしいのですが、人口が爆発的に増加すれば、財政が悪化し、生活水準が苦しくなるというのは世の法則です。それ故に、シャワーズ族は年々凶暴性を増し、更に騎兵の総数が増した事により、ここ数年は、とうとうアクソポリスを囲む城壁を突破する騎兵も出てきたと言うのです。
 そうなれば、舐めてばかりもいられません。しかし、アクソポリスの民も特に、シャワーズ族の攻撃に対する対策を練っていたわけではなく、長らく放置されていました。これは戦争を忌み嫌う、心優しきフンデル王の、その優しさ故による、数少ない欠点の一つです。
「伝令。総勢、計測不能。敵兵推定人数、二万」
「に、二万……」
 フンデル王は、伝令の言葉に軽い立ちくらみを覚えました。そしてふらふらとフンダの立っている方向に寄りかかっていったのですが、フンダは軽く身をかわしたので、フンデル王はそのまま横転して側頭部を強打してしまいました。
「ぐふっ」
 それが、麗しき都アクソポリスの王、フンデルの最後でした。
「フンデル王!」
 クソクレスの叫びが、虚しく王宮にこだましました。
 とてつもない大きな破壊音が、戦場を支配しました。シャワーズ族の攻勢により、遂に城門の一角が突破されつつあったのです。
「うわー」
 崩れ落ちた外壁の正面に、アクソポリスの弓兵がぼとぼとと零れ落ちていきました。
 その兵士たちはシャワーズ族の軍馬に踏み潰され、見る間もなく土へと同化していきます。とうとうベンジャーの大隊は、アクソポリスに足を踏み入れたのです。
「突撃隊、前へ。マーキング部隊は城壁を囲めよ」
 ベンジャーの命令に従い、突撃隊が城内に突入を開始します。その脇では犬が居場所を示すかの如く、何人かの小隊が城壁に小便を掛けていきます。しかしどうしても小便中は移動が困難となるが故に、彼らは生き残りのアクソポリス弓兵による狙い撃ちの的となり、次々に倒れていきました。
「貴様たちの活躍は後世に伝えようぞ。いざ、ベンジャー本隊、突入」
「そうはさせるか」
 遂にアクソポリスの城門が開かれて、アクソポリス兵のたちも迎撃体勢を強め飛び出しますが、勢いに乗るベンジャー本隊の軍馬は決して怯む事もなく、押し寄せます。
 逆に城門にシャワーズ族の軍馬が押し寄せ、アクソポリスの城壁は、正門を支える柱が破壊されてしまいました。
 シャワーズ族は一度に千の単位をもって、一気に城門に飛び込みますが、正門の幅は馬十数頭分ほどしかないので、逆に狙い撃ちされて次々に軍馬と騎兵の屍を重ねていきました。シャワーズの軍隊には、効率という言葉はないようです。しかしそれでも圧倒的な数の論理により、アクソポリスの城内には次々と軍馬が傾れ込んで来ました。
 市街地に突入した軍馬の動きは凄まじく、全く予測が掴めぬ個人技をもって駆け回り、その動きはアクソポリスの兵を惑わせます。アクソポリスの兵たちが、軍馬を囲んで追い込もうとて、何の逡巡も見せず追い込みの弓兵に向かって体当たりを仕掛けてきたりするわけですから、全く手の施しようがありません。
 戦略がないのがシャワーズ族の最大の特徴であり欠点なのですが、今回は長所として表に出ているようです。とうとうアクソポリスは、女性や子供を総動員せざるを得ない状況に追い込まれていきました。

-つづく-

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